シャイロック

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3/21/2025, 3:20:27 AM

手を繋いで

 どこまでも手を繋いで生きていくと思っていた。結婚した時は、どこに行くにも妻と手を繋いで、いろいろ話しをしながら歩いていた。
 ところが、子どもが生まれたら妻はベビーカーを押し、その子が大きくなったら子どもを真ん中に手を繋ぎ、だんだん夫婦が直接手を繋ぐことは減ってきた。
 さて、それから何十年、年を取った妻も私も足腰が弱くなってきた。
 今こそ手を繋いで、支え合って歩く時だと思っている。

No.143

3/20/2025, 6:26:25 AM

どこ?

 待ち合わせの場所に行ったのに、ゆうちゃんは居ない。「ゆうちゃん、どこ?」とLINEしたけど、なかなか既読が付かない。
 結局、メールや電話もしてみたけど、全然出ないし、帰ってきた。
 帰宅すると母が、「あら、サエ、デートって言ってたのに、もう帰ってきたの?サエの中2にして初デートを祝って、今からお赤飯炊こうと思ってたのよ」
 「要らない。フラれたみたい」「え?どうして?初デートもせずに?」「知らないってば!放っておいて!」思わずママに八つ当たりしちゃった。
 ところがね、ゆうちゃんは家にも帰っていなくて、あの次の日に、おうちの人から捜索願いが出されたんだって。クラスメイトに警察がいろいろ聞いて回ったみたい。友だちの何人かは私とデートだって知ってたから、私は長い時間いろいろ聞かれた。ホントは会って、なんかあったんじゃないか?って疑ってるみたいだ。メールやLINEを見せたり、何回も同じ説明をして、やっと解放された時には、5時間も経ってた。疲れた。
 それにしても、ゆうちゃんどうしたんだろう?ゆうちゃんが見つかれば、私の疑いはもちろん晴れるし、私はすっぽかされた理由を聞きたい。だって、好きだからデートしようと思ったんだもん。心配じゃん。
 あ〜、ゆうちゃん、どこ?

No.142

3/19/2025, 3:33:13 AM

大好き

 「愛してる」という言葉よりも「大好き」の方が好き。60代の私には、愛してるという言葉はなかなかハードルが高い。
 多分、今まで何度か恋愛もしたが、愛してるとは言ったことがないと思う。
 家族のことも、大好きだけど、愛してるというのは面映ゆい。なんだろね、この感覚?
 私は、大体の人は大好き。どんな人でも良いところがある。苦手かな、と思う人は居るけど、いつも仏頂面のその人がニヤっと笑ったりするともう、大好きになる。安易だ(笑)
 だから、みんなみんな大好き〜!

No.141

3/18/2025, 3:41:57 AM

叶わぬ夢

 親の敷いたレールの上を歩まされていた私は、自分の夢を持つことが出来なかった。
 途中から私は、夢を持たないようにしていた。たとえ小さな希望でも、口にしたら否定され、潰されてきたから。
 親は絶対で、親の言うことは1つも間違いがない。だから親の言うことは聞かなければならない。これほど極端に、親の権力が強い家は、今はほとんど無いと思う。聞かなければ暴力も有りだった。完全に恐怖政治だ。
 私自身は、子どもを頭から押さえつけずに、なるべくダメならダメな理由を話して、納得させるようにしている。間違っても暴力暴言はしない。時代もあるしね。
 私が結婚を決めたのは、30をだいぶ過ぎてからだった。親友は「レイコ、あの家を出るために結婚するんじゃないでしょうね」図星だった。
 まるっきり嫌な相手とは結婚する気にならないが「これで、ここを出られる」と思ったのは事実だ。
 見ないようにしていたけれど、私の叶わぬ夢は、家を出ることだったのかも知れない。

No.140

3/17/2025, 12:34:24 AM

花の香りと共に

 カランコロンとカウベルがなって、花の香りと共に、女性が2人入ってきた。
 「あら、私のがカウンターよ」
「やだ『日の出』さんとの付き合いはうちの方が長いのよ」
「そんなに変わらないじゃないの!それより私の方が貢献してるわよ」
「マスター、どっちをカウンターに置く?」
「う〜ん、カウンターのスペースあんまりないからなぁ」
 この店は、私が30年もやってきたが、去年ガンの治療のため一時たたんだ。だが、再開すると言ったらたくさんの常連さんから花が届いて、そんなに広くない店はいっぱいだ。
 うん、まぁもちろん嬉しいんだが、常連さん一、ニの彼女たちにこんなケンカみたいなことにはなって欲しくない。
 「そんなさ、自分たちの方が胡蝶蘭よりずっと綺麗なんだから、争わないでよ」
「あらん、いやね〜マスターったら」「そうねぇ、どこに置いても花は必ず枯れるけど、私たちはまた毎日来るわ」
「そうだよ!ほらこうして・・・」カウンターの上に、背中合わせに2つの鉢を並べて、入ってきた人が見える位置と、トイレに行ったり雑誌を取りに来た人が見える位置になった。
「これで、妥協してくれるかな、美人さんたち」
 「うふふ、マスター口がうまいんだから!」
そう言いながら、二人は満足そうに胡蝶蘭に顔を寄せた。花の香りと共に、問題は解決したらしい。

No.139

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