シャイロック

Open App

もう二度と

 高校生の時、先輩が「ちょっと紹介したい友だちがいるから、一緒に来い」と言う。
まぁオレも特に予定が無かったし、軽い気持ちで着いて行った。
 街なかの一戸建てで、春先の爽やかな風が通る家だった。きれいに片付けられていて生活感が無い。
 「岡田さん、見込みのある奴を連れてきました」先輩が、奥の部屋に居た20代の男性に声をかけた。
「おう!君はいくつ?」
真っ直ぐな目をした青年だった。じっと見つめられて、オレは少し動揺した。
「じゅ、17歳になったところです」
「そうか若いな。この窓から見える景色をどう思う?」背後の窓を指して岡田さんは言う。
「どう・・・って、普通の景色だと思います」
窓の外は、背の低い植え込みがあり、その向こうを、時々車が通り過ぎるだけだった。
 「そうだね。この普通の景色を、普通に維持するのは意外にたいへんなんだよ」
「あ、はい」
「まぁ、ゆっくり過ごしてくれ」
ゆっくり過ごせと言われても、生活感の無い家は、居心地が悪かった。先輩は岡田さんと話している。それで、許可を得て他の部屋にも行ってみたが、他にあと3人居て、それぞれ壁に寄りかかったり、窓から外を見ていた。
 いくつかある部屋の1つに小冊子が置いてあった。退屈だし手にとって見てみる。そこには、ニュースで話題になっている新興宗教の教祖の名前があった。
 オレは、先輩と岡田さんの居る部屋に行き、「家族と約束していたのを忘れていました。帰ります」「うん、気を付けてな」先輩は岡田さんと熱心に話しているせいか、妙にあっさりしていた。
 もう二度と、あの家には近寄ってはならない!本能的に感じていた。
 誰も追ってこないのに、オレは小走りになっていた。

No.147

3/25/2025, 3:43:35 AM