時間よ止まれ
昔あったのよ、「時間よ止まれーっ!」って言うと、周りの人がピタっとその場所で止まって、その間に事件を解決するの。犯罪の証拠や痕跡を見つけるんだったわね。
なんだかさー「時間よ止まれ!」って言う主人公の子役が可愛くて、それもあって一所懸命テレビ観てたよ。太田博之っていう名前だったかなぁ?長じて、何故か寿司屋チェーン興して、しばらくして潰れてたわねぇ。
そのドラマがあったから、私は時間を止めたいというか、何か解決に悩むと、自然に「時間よ止まれ!」っていう癖があるの。
今思うと、あの子のそれって超能力だったのかな。まぁとにかくね、あの子が「時間よ止まれ!」って言ったら、逃げていた犯人も止まるし、証拠を掴めるし、子どもだったからワクワクしたものよ。
追記・調べてみたら、NHKで6ヶ月間ウイークデーの18時からやっていた「ふしぎな少年」というドラマの中で出てきたセリフでした。「時間よ止まれ」というタイトルじゃなかったんだ。なんと、手塚治虫さん原作だそうてす!
No.111
君の声がする
さりちゃんとかくれんぼしてたんだけど、みつからないの。どこをさがしてもみつからないの。さっきからずっとさがしているのにな。
さっき、まりえせんせいが「おひるねのじかんですよ!みんなおいで」っていってからだいぶじかんがたってる。もう、おかえりのじかんになってたりするかなぁ?
ぼくはかなしくなって、はずかしいけどなきながら「さりちゃ〜んどこなの?みつからないよ〜!」といったんだ。そしたらどこからかさりちゃんのこえがする。
「かいとくん、さりちゃんいるよ。ここにいるよ」「さりちゃんいた〜!どこにいるの?」「もう、でていっちゃってもいい?わたしのかちだからね」「さりちゃんのかちでいいよ。でてきてよ」そういったとたんに、うしろからさりちゃんのこえがした。「きたよ〜!」「あー、さりちゃんいた、よかったぁ」「さりちゃん、いたよ」
そのあと、ふたりでほいくしつにもどったら、まりえせんせいに、ものすごーくおこられた。でも、さりちゃんいてよかった!
No.110
ありがとう
うちの家事ロボットのココロは、もう古いタイプになっている。後継種がどんどん出ていて、最新のモノはもっと動きが滑らかで、形も人間に近い。
でもオレは、ココロが好きで、捨てられない。そりゃ、後継種を買ったら下取りしてくれるから、まるっきり捨てるのではないにしても、ココロと別れることは出来ない。
街を歩いていると、最近は家事ロボット用の飾りも売っている。帽子だったりエプロンだったり、スリッパもある。かわいいと思ってもココロ用のはあまり無い。機種が古いからだ。
ところが、今日覗いたお店では、いくつかあった。おぉ、あるじゃないか!とつぶやいているのをそばに居た店員さんに聞かれ「そうなんですよ。古いタイプのを可愛がって使っていらっしゃるお客さんも多くて、時々聞かれるんです。それでバイヤーに言って探してもらいました」それは嬉しいね。と、オレはまた口の中でつぶやきながら、エプロンを3枚ほど選んだ。
帰宅すると、ココロは窓拭きをやっていた。ベランダの窓は、少し油断するとホコリや鳥の糞で汚れてしまう。
寒いベランダから冷たい風をまとって入って来たココロに「寒いのに、ありがとう」と声をかけた。オレは最近、ソファで座ってゲームしながら、なんでもココロにやらせることはしないし、挨拶もするようにしている。
「ロボットハ、サムサヲカンジマセン」「知ってるよ、そんなこと。でも、ココロがやってくれなきゃ、オレが寒い外で窓のあっち側拭くんだよ。それは辛いから感謝してるんだ」「ナルホド」
「それよりさ、今日ココロに似合いそうなエプロン見つけたんだ。ほら3枚買ってきた」「エプロンデスカ???」「うん、ほら1つつけてみよう」
と、オレは1番似合いそうなチェック柄のエプロンを、ココロにつけてやった。
「ワタシタチハボウスイカコウノボティデスノデ、モシヨゴレガツイテモ、カタクシボッタヌノデフケバスグキレイニナリス」「うん、まぁそうだろうな」オレは少し気色ばみながらそう言った。
だが、ココロは直ぐに続けて「デモ、ウレシイ。アリガトウ」
(No.106の続き)
No.109
そっと伝えたい
このタイトルで、このことを考える私って!・・・決してそればかり見ているワケではありませんよ!ありませんが、ズボンのファスナーが開いている人って、意外と多くないですか?
学校や職場で、何人に教えてあげたか分かりません。その教えるタイミングや言い方が難しいんですよね。
ごく親しい人なら「やだ、空いてるよ!」で済みますが、気が張る相手だと言いにくい。でも、その人がこれからまた行くところがあったりしたら、恥をかくのだから、今のうちに教えて差し上げたほうが良いよね、と、葛藤します。馬鹿馬鹿しいほどに。
そばに行って、そっと「失礼ですが、そのぉ」ぐらい言えば、察しのいい人なら気づきますが、ニブい人だと駄目です。
「え?なになに?」
「えーとですね」
「どうしたの?」
「(『どうしたの』じゃないわよ)開いてます」
「何が?」
「ですからぁ、ファスナーです!」
「あーっ!」
そっと伝えたいのに大騒ぎになります。
No.108
未来の記憶
時間旅行が出来るようになれば、未来の記憶も有り得るだろう。「親殺しのパラドックス」とか「行った先で死んだらどうなる」とかの疑問は、取り敢えず未来に行っている限りは問題ない(ないのか?)。戻ったら、他の人に未来のことを伝えればいいのだ。将来、何パーセントの人が時間旅行を出来るのか分からないけどね。
でも私は、やはり過去に行きたい。戻って行く私は、どんな風に見えるのか分からないが、とりあえず過去のカッコ悪い失敗を地道にクリアして来たい。
そのためには、少なくとも初回は「私は未来から来たあなたで、私の記憶では、あなたはこれから失敗するんだけど、しないようにしに来た」と納得してもらわなければいけない。
頭が堅く、曲がったことが嫌いだったあの頃の私に、それは通じるだろうか?いきなり現れたお婆さんにそんなことを言われても信じられないだろう。推理小説もSFも、好きでよく読んでいたけれど、小説の中のことと現実のことは違う。「未来から来た???」と、まずそこから説得することになる。
さて、そこに現れた私は、彼女(私)の記憶を全部持っている。未来の記憶が有るワケだ。大衆の面前で転んだとか、変なオトコと付き合ったとか、親にこう言ったらえらく怒られたとか、たいへんな会社に就職したとか、未来の私が随所に現れたら「あ、私、これから失敗するのね」と、落ち込んだり、「あ、また来た!」と、うるさがったりするかも知れない。
これは初回で、これがいけなかった。あれは止めよう。こんなオトコが接近してくるけどなびくな。〇〇は買うな。高校の屋上で水たまりを飛び越えるな。と、全部(実はまだまだあるが)言えばいいのだろうか?
それらを聞いても、きっとついやってしまうんだろうな。自分のことだからよく分かる。では、行って言っても無駄なのか!
No.107
ココロ
うちの家事ロボットはココロという名前だ。心が無さそうなロボットだからこそ、ココロと名付けて可愛がっている。
「ココロ、テレビをつけてくれ」
「ワカリマシタ、リモコンノスイッチヲイレマス」
「ココロ、そろそろ風呂を沸かしてくれないか?」
「ワカリマシタ、ジドウスイッチヲオンニシマス」
「ココロ、ここに糸くずが落ちてるぞ」
「ワカリマシタ、スグニヒロイマス」
「ココロ、コーヒーを淹れてくれ」
「ワカリマシタ、スグニイレマス」
「ココロ、玄関に行って、オレの靴を揃えてくれ」
「ワカリマシタ、ソロエマス」
ココロが居てくれて、本当に助かる。オレは、ソファに寝転がりゲームをしていれば良いのだ。
「ココロ、毛布が落ちた。かけてくれ」
「・・・・・・」
あれ?返事しない、壊れたか?そっぽを向いたまま命令していたが、まともに振り返って顔を見た。顔と言ってもロボットだから、取り敢えずてっぺんに丸いモノが付いていて、目鼻(みたいな)が付いているだけだ。
そのココロの顔が赤くなっていた。
「どうかしたか?ココロ」
「ジブンデデキルコトハジブンデシマショウ。コノママデハ、ナニモシナクナニモデキナクナリマス」
ココロは怒っていた。オレのために怒ってくれている。
オレは、思わず、
「ごめん!」とつぶやいた。
「ワカレバイイノデス」
ココロの顔は、いつもの色に戻った。ココロが、心を持ち、心を表した瞬間だった。
No.106