シャイロック

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2/11/2025, 2:55:27 AM

星に願って

 私が中学生、5つ違いの妹が小学生の時、ニュースで大規模な流星群が見えると聞いて、通っていた小学校の校庭に行った。
 あの頃の学校は自由で、校庭など誰でも入れた。子どもたちは学校が終わっても、ずっと校庭で遊んでいたものだ。
 だがさすがに、深夜1時の校庭は静かだった。田舎なので、人通りはすっかり途絶え、今のように灯りが明るくないので、ボォっとした光があちこちに有るだけで、暗い。
 怖がりの私は、校庭に入ったとたんに、もう後悔していた。
「やっぱり帰ろう」
「えーなんで?流れ星見たいよ〜!」
「で、でも、こんなにたくさんのお星さま見たじゃん」
「流れ星見に来たんだよ」
「だってさ、真っ暗だよ、怖くない?」
「怖くないよ、お姉ちゃんと一緒だもん」
いや、そのお姉ちゃんがビビってるんだけどなぁ。
 オバケが出たらどうしよう。悪いおじさんが来たらどうしよう。空を見あげながら私は、『どうか怖いことが起こりませんように!』と、星に願っていた。

No.105

2/10/2025, 3:43:32 AM

君の背中

 私の好みの男性は、鍛えていないぽっちゃり型。夫もそうだが、歴代の彼氏は九割ぐらいそのタイプだ。
 亡くなった私の実父は、短気で自分勝手で暴力的で、ろくでもない人間だった。あの世代にしては足が長くスリムで、適当にイケメンだったので、モテて浮気もしたらしい。多分、その正反対が私の好みになったんだろう。
 さて、体型的にぽっちゃりだと、当たり前だが背中も大きい。その広い背中にしがみつく、なんていう想像が楽しいのかも知れない。
 若い頃の夫はスリムだった。従兄弟だから知っているのだが、あの頃のままの夫だったら一緒にならなかったかも知れない。
 義母もまたぽっちゃり型で、その体型のとおり、おおらかでゆったりしていた。義母は父の姉である。あまりにも性格や体形が違うので、この伯母が父の姉とは、初めて会ったときは信じられなかったほどだ。
 と言うわけで、我が君の背中は大きい。いざという時には、しがみついて守ってもらいたいものだ。

No.104

2/9/2025, 5:17:18 AM

遠く....

 展望台や展望タワーが苦手だ。
 高所恐怖症だからなのだが、その理由がおかしいと友人に言われる。
 高いところから下を見下ろすと、怖い。背中からお尻にかけて、ゾワッとする。多分そこまでは、高所恐怖症の人はみんなだろう。
 ところが、田んぼが広がっていたり、ビルの屋上が広く見えたりすると、そこまで簡単に飛べそうな気がしてしまう。
 ここから飛ぶと、ちょうどあのビルの屋上に着地出来そう、と思ってしまう。あの青々とした田んぼの真中に着地したら、気持ちいいだろうな、なんて思ってしまう。
 けっこう大きめの衝動に襲われ、自分を抑えるのに苦労する。そこまでかなりの距離であってもだ。
 上から見ると、距離がそんなに無いように感じるのだ。
「ここから飛べば、遠くまで飛べるかも。遠く....」危ないことこの上ない。
 
No.103

2/8/2025, 3:19:34 AM

誰も知らない秘密

 私には、誰も知らない秘密がある。
 まぁ、誰にも言っていないというだけで、実は特に変わったことではない。秘密というのはオーバーか?
 まず第一の秘密は、私は結婚している。こんな小さな単身者アパートに住んでいるけど、実は夫がいる。
 夫は極端な人見知りで、いっさい外に出ない。私が仕事の帰りに食材を買って帰り、夫が料理してくれる。掃除洗濯等の家事は全部夫だ。ゴミはまとめてくれるので、私が出す。だから、夫は外に出ない。
 夫婦で暮らしていても、両隣の部屋の人には分からない。夫は物音をたてないたちだ。
 そう、これが第二の秘密なんだが、実は夫は聾唖者だ。2人の会話は手話。若い頃手話ボランティアをしていて、それが縁で夫と親密になった。だから、うちからは話し声が漏れないのだ。籍は入れているが、会社には申告していないし、アパートの人にも気付かれない。
 別に秘密にしているつもりはないけど、でもこれが我が家の誰も知らない秘密だね。

No.102

2/7/2025, 4:00:54 AM

静かな夜明け

 なぁゆかりさん、静かすぎるだろう。
 昨日の朝、いつもは私より早く起きる妻が起きてこなかった。疲れているのだろうと寝せておいたが、昼過ぎても起きないので、さすがにおかしいと様子を見に行ったら、死んでいるようだった。
 そこからがたいへんだった。いちおう、近所のかかりつけの先生に来てもらったが、
「あー残念だけど亡くなってるわ。警察に連絡しないとね」と、あまり残念ではない感じで言われた。こういうケースに慣れているのかな。
 それから警察官が5人も来て(こんなに来るもんなんだ)、うち中の写真を撮ったり、あちこち見たりしていた。死んでいた部屋だけじゃないんだ。
 いろいろと質問された。いつも、何時に寝て何時に起きるか(私も妻も)とか、持病はあったのかとか、どうして起こさなかったかとか、夫婦仲はどうだとか、なぜ別の部屋で寝ているのかとか、余計なお世話の質問も多かった。尋問みたいだなと思った。
 だが私は、落ち着いて一つ一つ丁寧に答えた。するとどうだろう。「あまり悲しそうじゃありませんね」一番若い警官がそう言いやがった。私は、思わず椅子から立ち上がり「なんですって」声が荒ぶった。
 「いや、だって、奥さんが亡くなったのに・・・」ベテランらしい警官が慌ててやってきて、「おい、失礼だろう!」
 まぁ、そんなこんなで、妻の検死を終えて、警察官が帰ったら、もうこんな時間になっていた。空が白々と明けかけている。
 なぁゆかりさん、夜明けは静かなものだけど、今日ほど静かだと思ったことはないよ。君がいないからだね。
 ビックリしたよ、悲しいよ、寂しいよ!昨日の昼以来、初めて涙を流した。昼間娘が来た時も、なんだかんだと言いながら号泣していたが、私は泣けなかったのに。
 あぁゆかりさん、いくらなんでも急すぎるよ。滂沱の涙を流して、私は長いこと号泣した。 

No.101

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