胸の鼓動が
どんどん遅くなってく。
彼女の息が
どんどん弱くなってく。
彼女の声が
どんどん掠れてく。
お願い。
あの日みたいに
笑って見せてよ。
あの太陽みたいに
あの日みたいに私を励ましてくれたように。
胸の辺りを抉り取られた彼女。
か細い声で、私に言う。
「私の、ことは、いいから。」
だめだ。
こんなんじゃ、
もうきっと、
彼女は助からない。
だから
「ごめんね、」
それまで戦わなきゃ。
私は武器を握りしめて、
遮蔽物から身を乗り出して
敵へと特攻した。
私たちの命なんて捨て駒に過ぎない。
だからって
戦わない理由にはならない。
苦しんでる人が今もいるから。
彼女が犠牲になることだって、
珍しくない事なんだ。
彼女が奇跡的な確率で、生きていたとしたら、
私は彼女に私の想いを打ち明けたい。
愛してるって。
仮に付き合えても、
女の子同士だから避難されちゃうかなぁ。
でも、私が絶対彼女を守る。
そう誓える。
だから、
今は頑張るしかない。
銃を1発2発、
次々相手に撃っていく。
いい感じだ。
人を殺すのはいい気がしないけど。
これはしょうがないんだ。
そう割り切るしかない。
最後の大玉。
こいつがボスか。
確実に背後を取った。
そうして、
銃を撃とうとする。
私が
撃つより先に
銃声が響いた。
あ…。
そう思ったらもう遅かった。
私の胸は銃で貫かれていた。
「かはッ…。」
目の前には鮮血が広がる。
私の心臓は完璧に撃ち抜かれている。
せめて、
最後は、
彼女の、
隣に。
私の身体はボスらしきやつに踏みつけられた。
意識が遠のいてく。
あぁ、でも、
彼女と地獄に行けるんだ。
そんなことを考えながら
意識を手放した。
時を告げる。
時計塔。
私は12時に帰らないと、
魔法が解けてしまう。
サンドリヨンは焦る。
王子を置いて
走り去る。
階段を急いで降りる。
王子は止めようとした。
その時
「___あっ…!」
足を踏み外す。
勢いよく落ちてゆく。
王子が支えようともしたけど
転げゆくサンドリヨンを止めることは出来ない。
でもサンドリヨンは見ていた。
王子が、私の足をわざと蹴落としたのを。
「__貴方の罪を忘れはしないわ。」
王子を睨みつける。
にやっと、笑う王子。
「_へぇ。」
きっと、彼は私を殺す気だったのだわ。
彼は、誰ともまだ結婚なんてしたくない、
って言ってたもの。
お姉様とお母様には悪いけど、
先にいかせてもらうね。
そう思って目をつぶって意識を手放した。
起きたら
ふかふかの、ベッド。
やぁ、お目覚めかい?
灰かぶり姫の、サンドリヨン。
隣から声が降ってきた。
私の足は動かない。
それどころか、足がない。
「僕から離れる足をなくてあげたのさ。
僕って、優しいだろう?」
でも、大丈夫。
これからは僕がお世話してあげるからね。
全身に寒気が走った。この男、狂ってる…!
逃げようとした。身体は動いてくれない。
金属が私の身体を縛り付けていた。
君が、不幸になって、それから幸せになる。
それだけじゃ、つまらないだろう…?
僕が、スパイスをかけてあげるよ。
王子は狂ったように笑う。
妹の作ってくれた貝殻のアクセサリー。
きれいなピンク、
海みたいな青、
ぴかぴかな白、
どれも宝石みたいだった。
大好きな、妹から貰った大切なもの。
どこに行くにも付けてった。
小学校、
いつもはだめって言われてるけど、
今日ぐらいはいいよね…?
私は貝殻のアクセサリーを持ってった。
学校についた。
みんなからきれい、
すごい
ってたくさんほめてもらった。
うれしかった。
先生が教室に入ってきた。
いつも厳しいけど、
大好きな先生。
「せんせい!見て!」
そうやって見せようとした時。
私を睨んで、
「貸しなさい。」
って。
見たいのかなって思って、
貸したの。
そしたらね。
ぐちゃぐちゃになっちゃった。
貝殻のアクセサリー。
先生が、足で踏みつけたの。
なんで。
なんでそんなことするの…?
私の顔もぐちゃぐちゃ。
涙で前が見えない。
「あなたが悪いのよ。こんなふざけたもの持ってきたから。」
私が悪いの?
持ってきたのがだめだったとしても、
壊さなくて、いいじゃん。
…じゃあ、今からすることは、先生が悪いから。
いいんだ。
私は、今日の工作で使うカッターを取りだした。
先生は驚いてたけど、
もういい。
私の大事を壊したから。
先生の大事も壊してあげる。
あは、あはは。
先生も、ぐちゃぐちゃ。
悲鳴でぐちゃぐちゃ。
顔がぐちゃぐちゃ。
みんなの顔もぐちゃぐちゃ。
全部全部全部全部。
ぐっちゃぐちゃ。
先生、喋らなくなった。
他の先生が来た。
私を連れてく。
待って、貝殻のアクセサリーだけ。
もう戻らないかもしれないけど。
お願い。お願い。お願い。
私、なんてことをしてしまったんだろう。
あなたのやることなすこと全てが目につく。
これはきっと恋だけど、
それでいて、恨みだ。
あなたが私の心を奪ったその日から。
俺には才能がある。
なんの才能かって?
絵の才能さ!
昔から賞を取り続けてるし、
正直、俺は天才だと思う。
テレビに取り上げられたぐらい俺は絵が上手くて、
そこらのやつとは違う。
おまけにそこそこ顔もいい。
学校では、何をしなくても人が周りによってくる。
俺は所謂陽キャってやつだろう。
俺がひょうきんなことを喋れば皆笑い、
俺が悲しいことを喋れば皆泣く。
あぁ、なんと素晴らしい世界だ!
学校は俺の帝国なのだ!
そう、本気で思ってた。
だが、ある日、俺の帝国は終わりを迎えた。
転校生がやってきた。
転校生は男だった。
そいつは何でもちちょいのちょいでやってのけるようなやつだった。
しかも、顔がその辺の下手なアイドルよりもいい。
しかも、面白い。
しかも優しい。
俺と違って。
だから、その日を境に、
俺より、そいつのが人気になった。
取り巻きも、そいつのとこにいった。
でも、絵、だけは。絵、だけは。
負けないって。
思ってた。
そいつは、俺より、絵が上手かった。
俺みたいな上辺だけの絵とは違う。
ちゃんと作り込まれて、想いが詰め込まれた、
宝石箱みたいな、それでいて、繊細な絵。
綺麗だった。
ある日、そいつに聞いたんだ。
「お前。絵、大会とかに出さねぇのかよ…。」
そいつは答えた。
「僕なんて、君と比べたら、まだまだだよ。」
って。笑顔で。
そいつの手は、
努力の滲んだ手を、してた。
そいつの作る世界は、どれだけ、
俺を壊したら気が済むんだ。
やめてくれ。
お願いだから、
俺から。
何も、
奪わないで…。
心の灯火が、そいつのひと吹きで消された。
俺の絶望に満ちた表情を見て、
そいつは、
俺に、口付けをした。
「かわいいね」
って。