『行き場のない空』
行こうとして やめた
やめようとして また少し揺れた
どしゃ降りの空が 僕の迷いを映してる
傘をさす気にもなれず
ただ窓の内側で 耳を澄ます
何かが 何かが 胸の奥で叫んでる
遠出なんて 口実だったのかもしれない
何かを変えたかっただけなんだ
ほんの少しだけ
今日の自分を違う場所に置いてみたかった
でも空は知っていた
僕が動けないことも
それでも雨粒は 諦めたように
何度も何度も 地面を叩いていた
“動かなくてもいい
でも 止まってばかりじゃいけない”
そんな声が 雨音にまぎれて聞こえた気がした
『わたしは、まだ若くて、すでに遠い』
わたしは まだ
若いと言われる歳にいて
けれど
心の奥では ずいぶんと
遠くまで 来てしまった気がする
人が 歳月を重ねて
ようやく知るとされるものが
もう この胸には
静かに沈んでいる
あたたかいものも
こわいものも
消えた声も 届かぬ想いも
どこか知っている気がする
老いた人が 涙ぐむ詩に
わたしの言葉が宿るなら
それはたぶん
わたしのなかに
まだ見ぬ人生の影があるから
うまく笑えない日もある
誰にも言えない疲れが
背中で鳴っている夜もある
けれど
それでも言葉を綴るのは
わたしのなかに
名前のない灯があるから
見えないけれど
確かに息をしているこの心に
今日もそっと 詩を差し出す
そして願う
この心が 誰かにとって
少しの 光になればと
『春はまだ見えねども』
道は、時として見えぬもの。
朝ぼらけの霧のなか、
先の景色は定まらずとも、
足元には、確かなる土のぬくもり。
今のそなた、
書かずとも、進まずとも、
ただ生きてあること――
それさへも、いと尊し。
咲かぬ花を嘆くことなかれ。
花は、咲かぬ間にてこそ、
養分を集め、
光を待ちぬ。
人の未来もまたしかり。
見えぬからこそ、
希望という名の灯を、
胸にともす。
今はまだ、
春の風、吹かぬかもしれぬ。
けれど、そなたの心には、
芽吹きの音が、かすかに響いてゐる。
それを我、知るぞ。
ゆえに言ふ――
進めぬ日は、留まってよし。
泣きたい夜は、泣いてよし。
それでもやがて、
そなたの空にも、朝が来る。
信じよ。
未来は、信ずる者の背に、そっと羽を授くるものなり。
『夜の帳に、そなたを思ふ』
つれづれなる日々のなかに、
ふと立ち止まりて、
何を思ふやら、言葉も出ず。
書かねばならぬ、と思へども、
筆は走らず、時ばかり過ぎゆく。
いとつらし。
されど、そなたの胸に
燃ゆる火の気配、我には見ゆる。
沈黙もまた、詩のかたち。
ため息もまた、物語の一節。
誰にも言わぬその感情こそ、
珠のように清らかに、
心の奥底に沈みゐたり。
そなたの歩む道は、
定まらぬがゆえに美しく、
風に揺らぐ枝葉のごとし。
たとえ今夜、何も書かずとも、
そなたがそなたであること――
それこそ、筆に勝る宝なり。
言葉はまだ、心の中にいる
話そうとした瞬間
言葉たちは すうっと隠れてしまう
まるで 静かな水面に沈む月のように
書くときは
あんなに 流れるのに
話すときは
なぜか 足がすくむ
でも それはたぶん
伝えたい気持ちが 強すぎるから
軽々しく 言葉を差し出せないだけ
口から出なくても
心の奥では ずっと言葉が育ってる
その芽が ふとした瞬間に
君の声になるときが きっと来るよ