子供の頃、口が軽いと言われて、
急に避けられたことがあった。
どんな質問にも、なんでも素直に答えてしまうような
嘘をつかない真っ直ぐな子供だった。
今では考えられない。
それが影響したのか、他に理由があったからか
分からないけれど、
全く真逆な人間に育った。
あの素直な子は一体どこへ行ったんだろう。
嘘をつくのは隠したい秘密があるから
疑うのは、秘密を広められるのを防ぐため
子供の私は、秘密がなかったのかもしれない
秘密を広められる恐怖を、嘘をつく意味を
知らなかった。
少し大きくなった頃ある嘘を見た。
誰かを守るための、優しいものだ。
嘘が人を助けることを知った。
正しいことは時に、人を壊すことも。
嘘をつく意味と、秘密を明かす恐怖と、
今までしたことの罪の深さまで知ることとなった
誰も傷つけないように、誰の秘密も知らないように、
秘密が聞こえない、噂が流れてこない静かな場所で
自分を守ることにした。
【消えた星図】
私は消えてしまったのかもしれない
テストでどれだけ高得点をとっても
部活を頑張って活躍しても
誰も私を見ない。誰も私を知らない。
最初は誰か見てくれたとしても
最後は必ず、みんな居なくなる。
みんな消えて居なくなっちゃった。
そもそも私は存在するはずじゃなかった。
うまれるとき、母子ともに死にそうだったらしい。
私はいないはずの子。
いなくてよかった子。
笑顔でいたら否定されて、真顔になった。
真顔も否定されたから、どんな顔をすればいいかな。
感情も消えてしまうかも。
誰かに見てもらうために頑張ってるなんて
笑われちゃうかな。
もっと頑張れ、力をつけろ、自分に甘えるな
なんてみんな言うけど、
私が努力を微塵もしてないと思っているのか。
何回も何回も考えて、これじゃないって失敗して、
なのに誰も見ない。どうせ私はできるからって。
そんな信頼どこから来るの。
私は才能なんて持ってない
みんなの方が持っているよ。
みんなの星座は色んな色がある。
とても綺麗で、目が奪われる。
思わず手を伸ばしてしまいそう。
私の星座は恒星を持っていない。
星図に書かれないから
誰も見えないし、誰も見てくれない。
でも見てくれた人の星図には
私があったんだろうな。
目を凝らして、手を伸ばして
見てくれていたんだろうな
今さら気づいたなんて、
やっぱり私の星図は何も書いていないみたいだ。
時々、自分が自分なのか分からなくなる。
好きな食べ物、趣味、大切な人
全部、嘘なのかもしれないと。
自分の本音はどこだろう。
そんなものは小さい頃、
逃げる才能と引き換えに、
どこかへやってしまった。
いかなる時も逃げ道を作り、
何かあったら消える。
目を離したらいつの間にか居なくなっていそうだと
私自身思うことがある。
それくらい臆病なのだ。
本心は誰にも見せるものではない。
仮に棘を刺されてしまったら、
もう二度と立ち上がることはできないだろう。
どこまでも臆病で自分にすら心を閉ざした
誰よりも墓に持っていく秘密が多い人間だから。
その秘密をひとつでも持って帰れば
私を支配することなど容易いことも、
誰も知らないのだろう。
誰も知ろうとしないだろう。
私を誰も見ないのも納得だな。
いくら見たとしても、
どんな闇より深く、底が見えない。
堕ちるしか方法がないなら誰だって諦めるさ。
人前で溢れるほど感情が出て号泣できる人を
どうしよもなく羨ましく思うのは
心を閉ざした代償か
無情な心を持った嫉妬か
好きなものは嫌いなもの以外で、
本当の言葉は嘘以外の言葉なのは
私が嘘つきで、こだわりがないからか
自分をどこか他人事だと思っているからか
こんなにも自分について考えているのに
確信していることがひとつも無いなら
私を見てくれる人なんて
余程の物好きなのだろうな。
ある友に聞いた。
来世、何になりたいのか。
少し時間を空けたあと、
私は"石"になりたいかな
何も考えなくてもいいし
生きるのって大変だから、と言った。
石も蹴られたり投げられたりで
大変だろうと思ったが、心に閉まっておいた
自分にも聞いてみた。
来世、何になりたいのか
色んな動物を挙げたあと、
ずっと地獄にいたいかな?
地獄にいれば生きることもないし
ただ苦しんでいればいいから、と応えた
幸せな家庭で自由な生活を送っているのに
なんでこんなに苦しんでいるのか。
私は理解できない。
普通と呼ばれる生活で、十分に愛されているはずなのに
私はなぜ叫んでいるのだろう
この世の辛み悲しみを、少しでも私がもらおうと
そんな綺麗事ではないけれど、
辛くないと、自分が許せなくなるから
愛を受け取ることができないから。
私はこんなにも生きたくないのだろう
【モノクロ】
人と関わるとき、
黒い液体や白い液体を注がれるような感覚がある
悪いものに当てられすぎると、
本来白いはずのものも黒くなる。
良いものばかりに触れていると
黒く染まるのが早く、戻るのが遅い。
白は居心地がいいけど、
自分が黒かった場合、悪い影響を与えてるかもしれない
そんな白と黒の感覚。
注ぐ色と自分の持つ色は違う、
いくら白い人でも誰かに黒い液体を注ぐ人もいる
逆に、黒い人でも白い液体を注ぐ人もいる。
私の周りには白を注いでくれる人ばかりだ
でも私は返せる白を持っていない。
白くいることが恩返しになるのかな。
白い液体を持つ人とばかり関わっていると
自分が黒いと思いがちだけど、
黒い場所に行ってみると、まだまだ白い自分を自覚する
やっぱり、誰もいないところが一番居心地がいい。
黒くすることもなく、黒くなることもない。
でも白に戻る訳でもない。
黒なら少量でも瞬く間に染まるが
白に戻したいなら大量の白と長い時間が必要だ。
そんな時間と大量の白はないから、
みんな黒い方へ歩みを進める。
大人になっても白い液体を注げる人はすごい。
注ぐ色と自分の色が違うストレスは凄まじいものだ。
とても苦しいものだから
私も知らない間に黒く染まっていく。
知らないところで誰かを黒く染めている。
この世界で生き抜くには白ではとても耐えられないか。
ここでは白い液体を注ぐのも逆に酷かもしれないな。