【未来の記憶】
ある日、鏡を見ていたら後ろに誰か立っていた。
話し掛けると、彼女は未来の自分だと言った。
姿や言動でそれは本当だと分かった。
「何か聞きたいことは?」未来の私は言った。
「……何か言いたいことは?」私は言った。
未来の私は押し黙った。何か考えているようだった。
そして一言「ごめん」と呟いた。
「いいよ、じゅうぶん頑張ったんでしょう」
私は泣きそうだった。恐怖じゃなくて諦めで。
私の事だもの。自分のことは自分が一番よく分かってた。そして、私はやっぱり弱くてだめだった。
未来の私は泣いていた。私も泣いた。
「あんただけよ。悲しんでくれるのは」
「さよなら」と言い残して未来の私は消えた。
しばらくして、未来の記憶がなくなった気がした。
「ネタバレなんて、私ってやっぱり最低な奴」
乾いた笑いを浮かべてそう呟くしかなかった。
【遠く....】
[ねぼすけさんのお日さまがまだまどろんでいる。
お庭には霧が掛かっていて、空気は冷たい。
ねむれなかったわたしはぼーっと、
その景色を窓から見ていた。
わたしを抱きしめるくらがりの中で、
湖までお散歩をしに行った。
水面に映っているのに、暗くて見えない自分の姿。
心は遠く....ずっと遠くまでいってしまった。
お別れを愛しすぎてしまったの、わたし。
たいせつな人たちとのさよならを迎えにいった。
だから、目の前にひろがる山から、
お日さまが現れることもない。
このままなのよ。]
私を模した人形に、自分の日記を手渡した。
月が慰める暗がりで、湖にその人形を沈めた。
これは別れを愛した自分とのお別れだった。
さよならをしたはずの、自分の心に出逢ってしまった。
私は別れの全てが怖くなった。
人形の私がきっと遠く....連れていってくれるわね。
昔の自分を。消せなかった私の思いを。
次の太陽が昇る朝に向かう。そうしたらきっと、
私の大切にした者たちに、もう一度会いに行こう。
【heart to heart】
I, I still believed in you.
that I could have a heart to heart with you.
In fact, we would have gotten along.
Even though I knew that one day we would part.
I had sworn to you that I would take care of you.
Yeah, but, you know, the goodbye came sooner than
I thought.
I really wanted to tell you, “Don't go yet,” but
I couldn't stand in the way of your path.
I thought you would be sorry to leave me.
No, I know.
I'm sure I'll see you again someday.
Goodbye, my love.
【永遠の花束】
花を眺めていた。この国一面に咲く花束を。
ああ、本物の花ではないけれど。
民はいわば花で、私はそれらに水を与えるのだ。
それが、王としての役目なのだから。
私が陽となり、時に雨を呼び寄せ、地を潤す。
そうすればきっと、いつまでもこの国は続くだろう。
暴君のように見えるかい。この私が。
独裁者だと言われたって構わないよ。
もし不満が溜まれば民がこの太陽を隠すだろうから。
民は馬鹿ではない。だから今私に着くのだから。
町娘から貰った花束を見た。そして誓う。
ずっとこの国の繁栄を、幸福を咲かせるのだ。
私が庇護する永遠の花束を。
【バイバイ】
大切な人だった。彼女がいるのが当たり前だった。
だからむしろ離れたがったのかも知れない。
優しくて暖かい陽のような存在だった。
いつしかそれが眩しくて、鬱陶しく感じていた。
気付かなかった。彼女が段々と陰っていくのを。
弱っていく心を、彼女は打ち明けなかった。
「またね、大好きなお友達」
彼女はいつも再会を約束してくれた。
「うん」
自分はそれに答えることができなかった。
ある日、彼女はぱったりと姿を消した。
彼女がいなくなった事に安堵さえ感じていた。
彼女を忘れ始めた頃、風の噂で聞いた。
彼女は自ら身を投げて、星になっていたのだと。
彼女との思い出をずっと反芻していた。
力なく笑って帰る後ろ姿は、六等星のようだった。
「バイバイ」
最後に聞いた彼女の言葉だった。
ああ、後悔してもしきれない。
太陽はずっと独りで泣いていたのに。
誰も、誰も彼女を抱きしめなかった。