【太陽の下で】
雲ひとつない晴天だった。
私たちは一面に敷かれたような草原の真ん中で、馬鹿みたいにはしゃぎ回った。
私たちはずっと一緒だった。集まろうなどと号令をかけずともいつも一緒にいるような。
鬼ごっこからピクニックなんて、遊び方が変わっても、私たちの関係は変わらないと信じていた。
信じていたからショックだった。
始めからそれぞれの道が分かれていることが嫌だった。
分かれていても、ひとつ同じ道を行くと思っていた。
一人は昇進し、一人は結婚し、一人は夢を追いかけ、一人は…一人は…。
そうやってみんなの道を行く背中を見送り続けて、私は現実を受け入れられずに分かれ道の真ん中で立ち尽くしているだけだった。
だからせめて、誰かが戻ってきた時、一人にならないよういつでも帰ってこれる居場所であろうとした。
誰もここに帰らないと分かっていても。
私は今まだ、こうしてここに立っている。
遊び場の草原でさえ変わっていってしまっていた。
それでも私は、みんなを祝福して一人笑う。
皮肉みたいな青い空、輝き続ける太陽の下で。
【落ちていく】
彼の瞳はいつも地面だけを映していて、どんよりと暗い雰囲気だけをまとっていた。
どう見たって幸薄い、絶望にうちひしがれたような姿。
いつも自分から報いを受けにいっていたその末路。
理由を聞くと、彼はいつもこうやって答えたのだ。
「僕の人生に光はない」と。
彼は教室で一番の悪者だった。みんなに嫌われて、恐れられてた。でも私にはそう見えなかった。
私だけにはちゃんと見えていた。本当の彼のことを。
この腐ったクラスの中で、いじめを止めるため。
彼をクラスの共通の敵として認識させ、団結を深めるため。
自分を劣等だと信じて疑わなかった彼は、自ら悪役になり、結果この教室はどのクラスより協調性を深めた。
彼は悪行の報いでいつも痣だらけだった。
そんな彼が飛び降りた。私の目の前で。
重力に従いその身体は落ちていく。
なのに何故、彼の目は光を反射して輝いているのだろう。そんな優しい表情で風を抱きしめているのだろう。
その腕の中にいるのが私なら良かった。
闇に落ちていく貴方。どうか私のこの恋心も共に奈落へ。
はなればなれ
昔、マイナーな同じゲームで何度も遊んだ仲間たちはみな、はなればなれになってしまった。
諸行無常。いつかはそんな日がくるのを分かっていた。
その世界に飽きた者。他の楽しみを見つけた者。
喧嘩別れになった者。人間関係に嫌気が差した者。
約束していただろう。まだ弱い自分らが敗北を繰り返し、そして最後の敵まで辿り着くと。
そのゲームでは最後の敵もプレイヤーだった。
一番強いとされたプレイヤーが最後の敵になるのだ。
自分だけが残り、何度も何度も戦った。
かつての仲間たちの面影を感じながら。
思い出を握りしめて、魔法を打っていたんだ。
何年待ったろう。やっと再会できたね。
また前と同じメンバーでパーティを組んでさ。
我らのいた世界も、ずいぶん有名になった。
今じゃ大人気のゲームだ。
一つ違うことは、自分が頂点にいること。
もう弱い自分ではない。そして、群れることもない。
旧友らが一番始めに俺に辿り着いた強者の一団か。
面白い。あの時と同じように、笑って戦ってくれ。
飛べない翼(あとで書く)
脳裏
「私とまた、付き合ってください」
優しい声が庭を包んだ。私の許嫁もとい同盟を結んだ王子が、悪女の姉に告げたのだ。
姉は悪女と呼ばれていた。メイドたちをいじめて、愛馬を虐待し、私を陥れ、王子にわがままを働いていた。
王子は堪忍袋の緒が切れ姉に婚約破棄をした。
同盟を結ぶために、代わりに私との婚約が決まった。
私は王子に長年恋煩いをしていた。
この気持ちは隠しておくはずだった。
だから、とても嬉しかったの。嬉しかったのよ。
姉様、あなたがある日、人格が変わったように善人にならなければ。
私には分からぬ、何かを思い出さなければ。
私が生まれたことで黒に染まったらしい姉はよく私に言っていた。
「あんたさえいなければ幸せだったのに。」
憎々しい顔が脳裏をよぎる。
姉様、良かったわね。私から全てを取り返せたわ。
悪行を挽回して、今じゃ王国一の善人なんでしょ?
あは、あはははは。こんなの酷い。私、悪くないじゃない。
「ハッピーエンドだったのよ。あなたさえいなければ」
きっと私、今脳裏に浮かぶ姉様と同じ顔をしているわ。