脳裏
「私とまた、付き合ってください」
優しい声が庭を包んだ。私の許嫁もとい同盟を結んだ王子が、悪女の姉に告げたのだ。
姉は悪女と呼ばれていた。メイドたちをいじめて、愛馬を虐待し、私を陥れ、王子にわがままを働いていた。
王子は堪忍袋の緒が切れ姉に婚約破棄をした。
同盟を結ぶために、代わりに私との婚約が決まった。
私は王子に長年恋煩いをしていた。
この気持ちは隠しておくはずだった。
だから、とても嬉しかったの。嬉しかったのよ。
姉様、あなたがある日、人格が変わったように善人にならなければ。
私には分からぬ、何かを思い出さなければ。
私が生まれたことで黒に染まったらしい姉はよく私に言っていた。
「あんたさえいなければ幸せだったのに。」
憎々しい顔が脳裏をよぎる。
姉様、良かったわね。私から全てを取り返せたわ。
悪行を挽回して、今じゃ王国一の善人なんでしょ?
あは、あはははは。こんなの酷い。私、悪くないじゃない。
「ハッピーエンドだったのよ。あなたさえいなければ」
きっと私、今脳裏に浮かぶ姉様と同じ顔をしているわ。
11/10/2024, 8:54:48 AM