謎い物語の語り手

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【落ちていく】

彼の瞳はいつも地面だけを映していて、どんよりと暗い雰囲気だけをまとっていた。

どう見たって幸薄い、絶望にうちひしがれたような姿。

いつも自分から報いを受けにいっていたその末路。
理由を聞くと、彼はいつもこうやって答えたのだ。

「僕の人生に光はない」と。

彼は教室で一番の悪者だった。みんなに嫌われて、恐れられてた。でも私にはそう見えなかった。

私だけにはちゃんと見えていた。本当の彼のことを。

この腐ったクラスの中で、いじめを止めるため。
彼をクラスの共通の敵として認識させ、団結を深めるため。

自分を劣等だと信じて疑わなかった彼は、自ら悪役になり、結果この教室はどのクラスより協調性を深めた。

彼は悪行の報いでいつも痣だらけだった。

そんな彼が飛び降りた。私の目の前で。
重力に従いその身体は落ちていく。

なのに何故、彼の目は光を反射して輝いているのだろう。そんな優しい表情で風を抱きしめているのだろう。

その腕の中にいるのが私なら良かった。
闇に落ちていく貴方。どうか私のこの恋心も共に奈落へ。

11/23/2024, 5:34:21 PM