謎い物語の語り手

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11/2/2024, 2:43:03 AM

永遠に


やっと復讐が終わった。
私にとっては酷く、酷く辛い選択だったよ。

でも、我が恋人を殺めた罪は重かった。
兄さん、そうだろ。何故彼女を魔女だなんて言った。

貴方が崇高で正しい司祭だったとしても、彼女を魔女と決めつけて裁判にかけたあなたは正義じゃない。

あんなに愛おしく、温かく笑う彼女が魔女な訳がない。
そう思ってた。だから、驚いたんだ。

彼女が本当に魔女だったこと。忌み嫌われる存在だと。
でもな、兄さん、あなたは一つ間違っていた。

彼女の魔術は優しかった。
一人調査して、彼女が白魔女だった事に気付いたんだ。

魔女がみんな邪悪だなんて、よく言ったものだよ。

ああ兄さん、私達は仲の良い兄弟と言われていたな。

だからこんな結末になるなんて思いもしなかった。

この世は諸行無常。ずっと続くものなどない。

それでも、兄さん。そして、我が恋人よ。

愛しているよ。永遠に。

11/1/2024, 8:13:38 AM

理想郷


彼らは古来より歩き続けている。

あるはずもない理想郷を目指して。

何かを得れば何かは犠牲になってしまう。

そんなことを知り得ながら、学ぶこともせず。

人間よ。今私の体はどうなっているのだろう?

君たちの望む理想郷か。

それともこのまま死に行く未来か。

月は私を見て大いに嘆いていた。

これが我が護るあなたの末路なのか、と。

彗星たちは私を見て笑う。

生命とは如何に愚かであり、恩知らずなのか、と。

気付いた時にはもう遅いだろう。

暑くて悲しくて仕方ないよ。愚かな生命たちよ。

代償を払うのは私だ。君らでは無いのだ。

せめて、美しい宇宙を、我が家を返してくれないか。

私の理想郷を。

10/31/2024, 9:29:27 AM

懐かしく思うこと


毎年春休みに、祖父母の家に何泊かしていた。

祖母とはよく話すんだが、祖父は寡黙な人だった。

ある日、俺は思い立って祖父を散歩に誘った。

祖父は頷いてくれたので、近くを歩いていた。

登りはしなかったが、山の近くまで来た。

祖父はなんだか懐かしげに山を見ていた。

「じいちゃんは懐かしく思うことってないの?」

「ないことはないな。だがこの話をしてもなぁ」

珍しく声を出した祖父に驚き、その話を聞いてみた。

「昔な、ここで妖怪と遊んだことがあった。」

「へぇ」

「また遊ぼうと約束したんだがなぁ」

寂しそうに言う祖父になんだか笑えてしまった。

「じいちゃん見えてなかったのか。家に座敷わらしがいるんだよ。ちゃんと近くにいるから大丈夫」

霊感がある俺が言うんだ。見えないけど感じるよ。

「それなら安心だ」と祖父は笑った。

10/30/2024, 5:40:02 AM

もう一つの物語


昔々、ある人魚姫が王子様に恋をした。

魔女と契約して声を失い、足を手に入れた。

しかし恋は実らず、その身を投げて命は泡になった。

ねえ人魚姫。そんな話が許されると思う?

どうやらこの物語はあなたのお話みたいね。

あなたはまた、次の人生で馬鹿みたいに恋をしてる。

あの王子に。歴史は繰り返すってこういうこと。

次はぽっと出の女にあなたの幸せを奪わせない。

そして、恩人を見る目もなかった節穴の王子にもね。

ハッピーエンドを見せてあげる。

しくじらないわ。下手なお涙頂戴はおしまいよ。

見せてあげる。もう一つの物語を。

あなたを見て、あなたを聞いて、あなたをよんだ、

誰よりもあなたを愛した群衆の一人が。

次は、魔女よりも怖い悪になって。

10/29/2024, 7:00:25 AM

暗がりの中で


主無き頃、気まぐれにある戦士を逃したことがあった。

敵に囲まれたらしい彼女は、戦士にしてはあまりに臆病で、剣を持つ手が震え動けないようだった。

平民でさえ、まだ彼女より勇敢だろうと感じたのを覚えている。

何故彼女を助けたのか、今だって自分が理解できない。

彼女は礼を言うと暗がりの中でずっと泣いていた。

いつしか放浪の時代は終わり、ある城主に雇われた。

彼の国と決着をつけるため、俺のような孤高の騎士を集めていたと言う。

戦地に赴けば慈悲を捨てただ斬っていくだけだった。

しかし、一人だけやたら腕の立つ女戦士がいた。

それは、いつか助けたあの臆病な戦士だった。

我らは激しい戦いを続け、ついに彼女は膝をついた。

俺が剣を振りかざすと、彼女は自分の剣を置いた。

「参りました。悔いはありません。」

俺はその顔を見た時、彼女を斬ることができなかった。

暗がりの中で、月に照らされた彼女は笑っていた。

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