謎い物語の語り手

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10/27/2024, 6:17:45 PM

紅茶の香り


雨が止んだ。いつもの喫茶店に行こう。

そうして決まった席に座る。

好きな紅茶とクッキーを注文してから店内を見る。

視界の真ん中には密かに想いを寄せる男性が映る。

話し掛けてみたいのに、私なんかが、と思ってしまう。

だってあの人は有名な騎士の学校の優等生なんだから。

こうして遠くから見るので精一杯。

いつもこうして、紅茶の香りとクッキーを楽しんで。

そろそろ帰らなきゃ。と、お金を払って店を出た。

「…大変だわ」

また雨が降りだしてきていた。傘を忘れてたわ。

「お嬢さん、私の傘に入っていきませんか。」

「まぁ、ありがとう……あら、」

隣にいたのは憧れの人。

「あの紅茶の香り。私も好きなんだ。」

彼が優しい声で言い、私に微笑み掛ける。

あぁ、神様。私はどうしたらいいの?

10/25/2024, 11:08:37 AM

友達


暗闇の中で鈍い痛みを感じた。力が抜け倒れてしまう。

段々光が差してきて、誰かの姿が見えた。
その剣先に滴る血は多分、私のものだろう。

「この様な再会になるとは思いませんでした。」

かつて志を共にした仲間。友のような存在だった者。

何も答えられないまま、走馬灯が頭を駆けた。

「貴方は誰よりも神に近く、強い男でしたよ。でも」

私たちは一等星より明るく光る星を追っていた。
その先で、神の如き力を手に入れ頂点に立つのだと。

「神が仰ったんです。あの力は貴方のものではない。
敬虔な信徒である私のものなんだとね。」

「は……なにを……」

「約束したでしょう。どちらかが違えた道を行った時、刺し違えても互いを止めると。あなたは力を求めたこと自体、間違っていたようですので。ではさようなら」

その目は不吉を呼ぶ預言者のものだった。
道を違えたのは君だ。という声はもう出ない。

「すまない……」

狂った君を止めることができなかった。
愚かな友を許してくれ。

10/23/2024, 8:34:10 PM

どこまでも続く青い空


争いは終わった。我らは武器を置く。

これより平和と涙の時代がくる。

贖いと慈愛の涙によって戦の残り火は消えるだろう。

やがて空は澄み渡り我らは天に不戦を誓う。

月よ。見るが良い。

貴様の明かりが届く前にでも築かれる新たな王朝を。

太陽よ。照らすが良い。

我らの生く様を。血の赤の流れぬ大地を。

そして、示しておくれ。

どこまでも続く青い空よ。

我らの庇護する平穏を、遠い遠い未来まで。

10/22/2024, 3:18:05 PM

衣替え


もうすっかり寒くなっていた。

嫌な予感がして、いつもの森に駆け込む。

そこで友のエルフが木に寄り添って枯れかけていた。

「ああ、いかないで。どうして」

思わず涙を流しながら彼女の肩を揺さぶる。

「大丈夫。少し眠るだけ。生命の芽吹く季節が来たら、私たちまた会えるから」

「いやだ…まだここにいてよ…」

分かってた。日が経つに連れて彼女の髪の色が変わっていっていたから。

エルフはその名の通り森の精霊。

樹々が枯れれば彼女らも消える。

「少しの辛抱でしょ?ほら、森もヒトのように衣替えをするのよ」

彼女はクスッと笑った。自分はずっと泣いていた。

「君たちには一瞬なんだろうね…。冬なんて。分かった。待っているよ。」

森と人、次の衣替えの季節にまた会おう。

花の便りが来る日まで。

10/21/2024, 6:16:03 PM

声が枯れるまで


愛と平和の聖女は、ずっと歌い続けている。

国のために。それが貴女の使命であるのだから。

この国の平穏は、秩序は彼女によって守られている。

その声に神秘を宿す彼女は、故に祭壇の女神像に声を捧げ続けなければならない。

それが、争いと償いを繰り返してきたこの国が、唯一安らかにあれる手段なのだ。

ならば、貴女の平穏はいつ訪れる?

顔も分からぬ民草、我らのために自らを犠牲にし、一筋の光が差し込むだけの暗い祭壇に囚われ続けるというのか。

貴女の声にしか用のない国王が、貴女の一切の自由を奪ったと知っていて、何故なお愛を歌い続けるのか。

貴女には、愛も平穏も許されないというのに。

もし貴女が人魚姫であったなら、私が悪を成して、貴女を陥れてでも自由に生きられる足を与えただろう。

愛を説き、平穏を生き、己の為に生きる傲慢の在り方を貴女に示しただろう。

しかし、貴女はそれでも歌い続けるのだろうな。

その声が枯れるまで。

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