謎い物語の語り手

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声が枯れるまで


愛と平和の聖女は、ずっと歌い続けている。

国のために。それが貴女の使命であるのだから。

この国の平穏は、秩序は彼女によって守られている。

その声に神秘を宿す彼女は、故に祭壇の女神像に声を捧げ続けなければならない。

それが、争いと償いを繰り返してきたこの国が、唯一安らかにあれる手段なのだ。

ならば、貴女の平穏はいつ訪れる?

顔も分からぬ民草、我らのために自らを犠牲にし、一筋の光が差し込むだけの暗い祭壇に囚われ続けるというのか。

貴女の声にしか用のない国王が、貴女の一切の自由を奪ったと知っていて、何故なお愛を歌い続けるのか。

貴女には、愛も平穏も許されないというのに。

もし貴女が人魚姫であったなら、私が悪を成して、貴女を陥れてでも自由に生きられる足を与えただろう。

愛を説き、平穏を生き、己の為に生きる傲慢の在り方を貴女に示しただろう。

しかし、貴女はそれでも歌い続けるのだろうな。

その声が枯れるまで。

10/21/2024, 6:16:03 PM