謎い物語の語り手

Open App

暗がりの中で


主無き頃、気まぐれにある戦士を逃したことがあった。

敵に囲まれたらしい彼女は、戦士にしてはあまりに臆病で、剣を持つ手が震え動けないようだった。

平民でさえ、まだ彼女より勇敢だろうと感じたのを覚えている。

何故彼女を助けたのか、今だって自分が理解できない。

彼女は礼を言うと暗がりの中でずっと泣いていた。

いつしか放浪の時代は終わり、ある城主に雇われた。

彼の国と決着をつけるため、俺のような孤高の騎士を集めていたと言う。

戦地に赴けば慈悲を捨てただ斬っていくだけだった。

しかし、一人だけやたら腕の立つ女戦士がいた。

それは、いつか助けたあの臆病な戦士だった。

我らは激しい戦いを続け、ついに彼女は膝をついた。

俺が剣を振りかざすと、彼女は自分の剣を置いた。

「参りました。悔いはありません。」

俺はその顔を見た時、彼女を斬ることができなかった。

暗がりの中で、月に照らされた彼女は笑っていた。

10/29/2024, 7:00:25 AM