謎い物語の語り手

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10/31/2024, 9:29:27 AM

懐かしく思うこと


毎年春休みに、祖父母の家に何泊かしていた。

祖母とはよく話すんだが、祖父は寡黙な人だった。

ある日、俺は思い立って祖父を散歩に誘った。

祖父は頷いてくれたので、近くを歩いていた。

登りはしなかったが、山の近くまで来た。

祖父はなんだか懐かしげに山を見ていた。

「じいちゃんは懐かしく思うことってないの?」

「ないことはないな。だがこの話をしてもなぁ」

珍しく声を出した祖父に驚き、その話を聞いてみた。

「昔な、ここで妖怪と遊んだことがあった。」

「へぇ」

「また遊ぼうと約束したんだがなぁ」

寂しそうに言う祖父になんだか笑えてしまった。

「じいちゃん見えてなかったのか。家に座敷わらしがいるんだよ。ちゃんと近くにいるから大丈夫」

霊感がある俺が言うんだ。見えないけど感じるよ。

「それなら安心だ」と祖父は笑った。

10/30/2024, 5:40:02 AM

もう一つの物語


昔々、ある人魚姫が王子様に恋をした。

魔女と契約して声を失い、足を手に入れた。

しかし恋は実らず、その身を投げて命は泡になった。

ねえ人魚姫。そんな話が許されると思う?

どうやらこの物語はあなたのお話みたいね。

あなたはまた、次の人生で馬鹿みたいに恋をしてる。

あの王子に。歴史は繰り返すってこういうこと。

次はぽっと出の女にあなたの幸せを奪わせない。

そして、恩人を見る目もなかった節穴の王子にもね。

ハッピーエンドを見せてあげる。

しくじらないわ。下手なお涙頂戴はおしまいよ。

見せてあげる。もう一つの物語を。

あなたを見て、あなたを聞いて、あなたをよんだ、

誰よりもあなたを愛した群衆の一人が。

次は、魔女よりも怖い悪になって。

10/29/2024, 7:00:25 AM

暗がりの中で


主無き頃、気まぐれにある戦士を逃したことがあった。

敵に囲まれたらしい彼女は、戦士にしてはあまりに臆病で、剣を持つ手が震え動けないようだった。

平民でさえ、まだ彼女より勇敢だろうと感じたのを覚えている。

何故彼女を助けたのか、今だって自分が理解できない。

彼女は礼を言うと暗がりの中でずっと泣いていた。

いつしか放浪の時代は終わり、ある城主に雇われた。

彼の国と決着をつけるため、俺のような孤高の騎士を集めていたと言う。

戦地に赴けば慈悲を捨てただ斬っていくだけだった。

しかし、一人だけやたら腕の立つ女戦士がいた。

それは、いつか助けたあの臆病な戦士だった。

我らは激しい戦いを続け、ついに彼女は膝をついた。

俺が剣を振りかざすと、彼女は自分の剣を置いた。

「参りました。悔いはありません。」

俺はその顔を見た時、彼女を斬ることができなかった。

暗がりの中で、月に照らされた彼女は笑っていた。

10/27/2024, 6:17:45 PM

紅茶の香り


雨が止んだ。いつもの喫茶店に行こう。

そうして決まった席に座る。

好きな紅茶とクッキーを注文してから店内を見る。

視界の真ん中には密かに想いを寄せる男性が映る。

話し掛けてみたいのに、私なんかが、と思ってしまう。

だってあの人は有名な騎士の学校の優等生なんだから。

こうして遠くから見るので精一杯。

いつもこうして、紅茶の香りとクッキーを楽しんで。

そろそろ帰らなきゃ。と、お金を払って店を出た。

「…大変だわ」

また雨が降りだしてきていた。傘を忘れてたわ。

「お嬢さん、私の傘に入っていきませんか。」

「まぁ、ありがとう……あら、」

隣にいたのは憧れの人。

「あの紅茶の香り。私も好きなんだ。」

彼が優しい声で言い、私に微笑み掛ける。

あぁ、神様。私はどうしたらいいの?

10/25/2024, 11:08:37 AM

友達


暗闇の中で鈍い痛みを感じた。力が抜け倒れてしまう。

段々光が差してきて、誰かの姿が見えた。
その剣先に滴る血は多分、私のものだろう。

「この様な再会になるとは思いませんでした。」

かつて志を共にした仲間。友のような存在だった者。

何も答えられないまま、走馬灯が頭を駆けた。

「貴方は誰よりも神に近く、強い男でしたよ。でも」

私たちは一等星より明るく光る星を追っていた。
その先で、神の如き力を手に入れ頂点に立つのだと。

「神が仰ったんです。あの力は貴方のものではない。
敬虔な信徒である私のものなんだとね。」

「は……なにを……」

「約束したでしょう。どちらかが違えた道を行った時、刺し違えても互いを止めると。あなたは力を求めたこと自体、間違っていたようですので。ではさようなら」

その目は不吉を呼ぶ預言者のものだった。
道を違えたのは君だ。という声はもう出ない。

「すまない……」

狂った君を止めることができなかった。
愚かな友を許してくれ。

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