すれ違い
すれ違いといえば、好きなゲームのキャラクターの設定にとても良いものがある。
兄弟の話なんだけど、有能で弟を愛してる兄と、意気地無しで兄に憧れてる弟のキャラがいる。
主人公と主に関わるのは弟。彼は貴族なのに自分の出身も分からない主人公に気さくで優しい性格をしている。
中世ヨーロッパの世界観で、騎士の家系だから、優しい性格で人を傷つけられない、剣の才能がない弟は家の恥だって罵られて生きてきたらしい。
弟は英雄である兄に憧れてて、でも兄は弟に自分のように生きてほしくなかった。
弟はそんな兄の気持ちに気付いていてなお英雄になりたかった。
弟は最後自分が無力だって自虐しながら死んでしまう。
大切なものを守った末路だった。
それは多分、兄の思い描いてた本当の英雄の姿だと思う。弟の死に様を兄が見てたら何て言ったんだろう。
最後までその兄弟はすれ違っていて、行動も別々、兄弟だって設定がなくても良いくらい関わってなかった。
伝わらなかったけど、互いを想い合っていて、時代が違えば良い兄弟だったんだろうなぁ。
一度でも仲良くしてる姿を見たかったなぁ。
秋晴れ
良い秋晴れの日だったから、神社を訪れた。
黄金の参道を歩きながら涼しい風を感じる。
遠い空を見上げると、顔に水が落ちてくる。
青い空の中、浄化するような水滴が降り注ぐ。
「雨か…?晴れているのになぜ…」
戸惑っていると、シャン、シャンと音が聞こえてくる。
何か見つかってはいけない気がして傍の木に隠れた。
様子を伺っていると、参進している集団が見えた。
「なんだ、結婚式か。」
そのまま様子を伺っていると、なにか違和感がした。
参進している集団にしっぽが生えている。
驚いて声もでなかった。
「狐の嫁入りか…初めて見たな。」
妙に冷静になってしまった。いつしか雨が止んでいた。
空を見上げて視線を戻すと、もう狐たちはいなかった。
新たな門出を祝う彼らの幸せを、自然に願わずにはいられなかった。
忘れたくても忘れられない
成人式を終えたあと、私は田舎の実家に帰った。
成人を家族親戚と祝いそして、儀式を行うため。
時代を逆行したような私の田舎ではこんな風習がある。
「生まれた子どものお参りで、山の神様の祠に入り、神職が祝詞を唱える。二十歳になってから再びお参りをする。何事もなく終われば幸せになれる。」
私は子どもの頃の儀式の事を何となく覚えていて、そこで神様の名前を聞いた。
幼少期に一度しか聞いたことがなかったのに、なぜか忘れたくても忘れられない名前だった。
祠に行き、祈祷をしてもらい、お参りをした。
私はその時、忘れられない神様の名前をぼそっと呟いた。呟いてしまった。
その瞬間、沈黙が流れ、その後神職の読み上げる祝詞が変わったように感じた。
違和感に気づいて後ろを向くと家族や親戚、知り合いがみんなこちらを見ている。感情の分からない顔で。
「おめでとう」
みなが口角をあげて笑った。後ろに気配がする。
早く教えてよ。この神様の名前を覚えていて祠の前で呼んでしまったら、婚姻の生け贄として捧げられるなんて。
やわらかな光
ある日、数人の若人が小さな廃教会に忍び込んだ。
鬱蒼とした森の中にひっそり佇む壮大な歴史の面影。
色褪せた聖人の絵画。鳴らないオルガン。
壊れた石像。枯れ果てた泉の跡。曲がった本棚。
そして、あたたかい光が差す割れたステンドグラス。
ステンドグラスには腕を広げる女神が描かれていた。
若人たちはそれらを見て物語を綴った。
彼らの妄想が作り上げた全くデタラメな御伽噺を。
「この教会の神父が革命を起こしたんじゃないか。」
「ステンドグラスの女神は小さな泉で目覚めた。」
「本棚で見つけたこの本は彼らの日記だったとか。」
「この石像に彫られた者達が共に戦った。」
若人たちの物語は実に鮮やかで、残酷で、美しかった。
まるで本当にそんな歴史があったかのように話すのだ。
やわらかな光に照らされながら彼らは話し続けた。
光とともに彼らを抱くガラスの中の女神は微笑んでいた。
………。
そんな語り手達の知らない話をしよう。
森の中にひっそり佇む小さな廃教会。
まさに若人たちが白熱するその歴史の面影の中だ。
今よりxxx年前、そこでは一人の神父が仲間たちを集め、共に革命を起こしたという。
鋭い眼差し
まだ戦士に成りたての頃、敵に命を狙われて竦み上がっていた私を助けてくれた人がいました。
謎めいたその人は鋭い眼差しで敵を見つめて、そして次の瞬間相手は倒れていたんです。
とても強くてかっこよくて、でも私には手の届かないような人だって一目で分かった。
私はずっと記憶の中のその人の背中を見ていて、その人に憧れてたくさん鍛練を積みました。
そして、私はそれなりに強い戦士になったんです。
いつか彼と共に戦いたいとすら夢に見ました。
今、その人は私の前に立っています。
一緒にいた仲間たちは皆やられてしまいました。
彼と敵対しなければならない運命を恨みました。
しかし同時に、この再会を嬉しく思いました。
私は持ち得る全ての力で戦いました。
同じ戦士としての誇りに賭けて。
そして、仲間たちへの弔いのために。
でも、あぁ、やはりあなたには敵いませんね。
あなたの鋭い眼差しがまっすぐ私を捉えている。
怖くて悔しいけれど、あなたに葬られるならこれ以上の喜びはない。