謎い物語の語り手

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忘れたくても忘れられない


成人式を終えたあと、私は田舎の実家に帰った。

成人を家族親戚と祝いそして、儀式を行うため。

時代を逆行したような私の田舎ではこんな風習がある。

「生まれた子どものお参りで、山の神様の祠に入り、神職が祝詞を唱える。二十歳になってから再びお参りをする。何事もなく終われば幸せになれる。」

私は子どもの頃の儀式の事を何となく覚えていて、そこで神様の名前を聞いた。

幼少期に一度しか聞いたことがなかったのに、なぜか忘れたくても忘れられない名前だった。

祠に行き、祈祷をしてもらい、お参りをした。

私はその時、忘れられない神様の名前をぼそっと呟いた。呟いてしまった。

その瞬間、沈黙が流れ、その後神職の読み上げる祝詞が変わったように感じた。

違和感に気づいて後ろを向くと家族や親戚、知り合いがみんなこちらを見ている。感情の分からない顔で。

「おめでとう」

みなが口角をあげて笑った。後ろに気配がする。

早く教えてよ。この神様の名前を覚えていて祠の前で呼んでしまったら、婚姻の生け贄として捧げられるなんて。

10/17/2024, 4:20:14 PM