鋭い眼差し
まだ戦士に成りたての頃、敵に命を狙われて竦み上がっていた私を助けてくれた人がいました。
謎めいたその人は鋭い眼差しで敵を見つめて、そして次の瞬間相手は倒れていたんです。
とても強くてかっこよくて、でも私には手の届かないような人だって一目で分かった。
私はずっと記憶の中のその人の背中を見ていて、その人に憧れてたくさん鍛練を積みました。
そして、私はそれなりに強い戦士になったんです。
いつか彼と共に戦いたいとすら夢に見ました。
今、その人は私の前に立っています。
一緒にいた仲間たちは皆やられてしまいました。
彼と敵対しなければならない運命を恨みました。
しかし同時に、この再会を嬉しく思いました。
私は持ち得る全ての力で戦いました。
同じ戦士としての誇りに賭けて。
そして、仲間たちへの弔いのために。
でも、あぁ、やはりあなたには敵いませんね。
あなたの鋭い眼差しがまっすぐ私を捉えている。
怖くて悔しいけれど、あなたに葬られるならこれ以上の喜びはない。
高く高く
私は天使として生まれた。
天使は自分の翼を真に信じた時に飛べるようになる。
私は自分の翼を信じることができなかった。
天界に生きるものにとってそれは、…「不信」は忌むべき感情であり、故に飛べぬ者は嘲笑の対象であった。
しかし、貴女だけはいつも隣にいてくれた。
「焦らなくていいのよ」と言ってくれた。
私はいつも貴女に救われてばかりだった。
そんな貴女が今、大罪によって翼を失っている。
貴女の優しさが犯した罪だった。
そして堕ちた貴女と共に落ちている。
貴女が行くなら私も、そう思った。
「…違う、違うだろう。今こそ舞い上がるのだ。」
私は翼に力を込め思い切り羽ばたいた。
飛べぬことによって貴女に救われていた私の翼は、貴女のためにあるべきだろう!
「ああ、自分の翼を信じられるようになったのね」
「はい、今度は私が貴女の翼です…!」
あんなに遠くなった天界が今度は段々近づいていた。
もっと、高く、高く。
今ならきっと、天界よりも高く飛んで行ける気がする。
放課後
毎年母校を訪れている。そして今年も。
今はもう放課後。教室に生徒はいない。
昼間はたくさんの声で賑やかなのに、夕方は何だか寂しくなる。この感じが懐かしい。
といっても、私が訪れるのは夏休みだから1日誰もいないのだけれど。
たくさんの思い出がある。
眠かった授業。誰も真面目にしない掃除。そしてこの景色。昨日のことのように思い出せる。
窓から差し込む夕日を眺めながら、かつての自分の席に座る。その時スマホが鳴った。画面を見る。
『もう還らなきゃだめだよ。還ってこい。』
通知にかかれたそれを見て私は¿¿¿¿???
「あ、私、死んでるんだった(笑)」
眠かった授業。誰も真面目にしない掃除。そしてこの景色。死ぬ前に見ていた1日、これしか思い出せない。
窓から差し込む夕日、窓から差し込む夕日の時だけ。
毎年毎年毎年毎年お盆にだけ、地獄から帰って来られるのよ。この時間に。
私が窓から突き落とされたこの時間にさ。
返してよ。私の平和だった放課後を返してよ。
地獄に還りたくない。返してよ。
平和な放課後を返してよ。
返してよ返してよ返してよ返してよ返してよ返してよ返してよ返してよ返してよ返してよ返してよ返してよ
カーテン
夜になったら、カーテンを掛けなきゃね。
この暗い暗い夜空に。
雲一つない、晴天の夜空に。
え?カーテンはもう閉めただって?
ふふ、家の中のカーテンを掛けたら見られないよ!
ほら!外に出よう!
見てごらん!人間だけじゃない!
空もカーテンを閉めるみたいだ!
面白いだろう?
人間は家の中を見られないようカーテンを閉めるのに、
空は人間に見られるようにカーテンを掛けるんだ。
寒空の下、僕らは暖もとらずに上を見上げる。
息を飲むほど美しい景色を見ながら君は笑う。
「珍しい表現だな。オーロラが空のカーテンだなんて」
「ありきたりだよ」
涙の理由
「精霊がにんげんらしいことをするだなんてね」
微笑みを浮かべた貴方の目から、涙が溢れ落ちている。
「どうしたの」
びっくりして理由を聞くと、貴方は静かに答えた。
「今、君といれてすごく幸せなんだ。だからこの瞬間が終わるのが怖くて、悲しくて仕方ないんだ」
なあにそれ、おかしな人。
私はそう言って笑ったけれど、その意味が分かるような気がするの。
ここがおとぎ話の世界なら、私たちハッピーエンドで終われたのかもしれないのにね。
でも、むりよ。
貴方は火で、私は雪だもの。
「愛ってこんなに温かいのね。それとも貴方の熱かしら、ふふ。溶けてしまいそうだわ」
「なんだかおかしな話だね。君が熱を感じていて、僕が…水を溢しているなんて」
「もう泣かないで。次は溶けて水になった私が貴方を消してしまうかもしれないわよ。」
「そうなったら僕ら、一つになって永遠に離れないでいられるかな」
いつの間にか私も、ぽろぽろ涙を流していた。
溶けているのか悲しいのか、その理由は分からなかった。