『好きだよ』
こんなことを書いていいのかわからないけど。
春だからなのかいつもなのか、お題がなんていうか…パステルカラーみたいな。難しいわ。
文句言うなら書かなければよいのだけど、まずは続けてみようと思って始めたし、もう少し頑張ってみよう。
好きだよ。かぁ。
誰に言うだろう?
子どもたちにはよく言ってる。
私は良い母親ではないなと自分でも思う。
学校が休みのときはお昼ごはんを作るのも面倒だし、ついつい叱りすぎたりするし、興味の無い話を延々聞かされるのもキツいし、子どもを優先できないこともしばしば。
だからこそ、子どもたちが私の愛情を疑うことのないようにこの言葉を言っている。
ちょっと洗脳に近いかもしれない。
面倒なときもあるけど。
ムカつくときもあるけど。
推しの話を熱く語られるのもキツいけど。
それでも。
美味しい顔されたら嬉しいし、
ムカつくのも一時だし、
推しの話してる時の一生懸命な顔は可愛い。
そのうちに手を離れていく未来を想像すると、やっぱり少し寂しい。
うん。やっぱり覚えておいてほしい。
お母さんはあなたたちが大好きだよ。
『桜』
あなた、見て。桜が満開よ。
おお、きれいだなぁ。
天気も良いし、久しぶりに花見でもするか。
ふふ。子どもたちが小さいときは、お弁当持ってよく行ったわね。
懐かしいなぁ。弁当か。お前が作ってくれた肉巻きとごま和え、うまかったよなぁ。
外で食べるといつも以上に旨く感じるの、あれは不思議だよなぁ。
子どもたちは唐揚げとおにぎりばっかり食べてたわね。あと玉子焼。
そうそう。野菜は食べなくてなぁ。はは。でも、子どもたちもすっかり大きくなっちまって。今…あれ?いくつだったか。
そうね。あなたも歳をとったものね。
お前は変わらないなぁ。俺ばっかりじいさんになっちまった。
ふふ。しわしわになったあなたも悪くないわよ。
はは。そうか。しわしわかぁ。まいったなぁ。
こうやって、お前と話すのは楽しいもんだなぁ。
もっと早く気付いてれば良かったよ。
そうよ。楽しいのよ。私はとうに気付いていたわよ。だからこれからまた、たくさんお話しましょうか。
ああ、そうだな。楽しみだ。
窓際のベッドの上で、老人はゆっくりと眼を閉じる。
ベッド横の棚には、穏やかに微笑む初老の女性の写真。風がふんわりと、一枚の桜の花びらを運んできた。
『君と』
付き合っていたときから
君との未来は想像できなかったよ
お互いに若くて
わがままで
傷つけて
相手を振り回してばかりだった
最後はお互いに疲れはててしまったね
君は私に嫌気がさし
私も君から逃げ出した
若気の至りといってしまえば
そうなのかもしれない
でも今思う
きっと君もそうだろう
あの時
君と別れて本当に良かった
今の私があるのは君のおかげです
ありがとう
昔、娘がまだ2歳か3歳のとき。
どこに出掛けたのか、もう覚えてはいないけれど、娘と二人で家に帰る電車の中。
車窓から空を見上げると、今にも雨粒が落ちてきそうな低い雲。
しまった。傘を持っていない。
洗濯物も干しっぱなしだ。
家に着くまでに降ったら嫌だなぁ。
急いた気持ちをごまかすように、膝の上の娘に話しかけた。
「○○ちゃん、おうちに着くまで雨が降らないように、○○ちゃんからもお空にお願いしてー。」
軽い気持ちだった。
すると娘が突然、空に向かって叫んだ。
「お空さーん!」
あ、これはまずい。
予想外のボリューム。
アワアワする私をよそに、娘は続ける。
「泣かないでねー!○○ちゃんがいるから大丈夫だよー!」
静まり返った電車の中、慌ててももう後の祭り。
私のお願いを聞いてくれただけの娘。
叱れるはずもない。悪いのは私。
周りの人が微笑ましい顔をしてくれたのがせめてもの救いだった。
それにしても、空の心配をした娘に比べ、私はなんて…、なんて自分勝手だったんだ。
自分を恥じた、今となっては良い思い出。
扉の向こうの世界をあれこれ想像しているうちに、ついに部屋の準備が整ったようだった。
ぼくはひとつ目の扉を開け、部屋に入った。
暗いけど、温かくてふわふわする。
気が付くと、ぼくの真ん中から紐が出ていて、部屋のどこかと繋がっているようだった。
気持ち良い。
ゆらめきながら、ずっとうとうとしていると、時々何かが聞こえるようになってきた。
はっきりとは聞こえないけれど、優しい音。高い音、低い音。いくつかの種類がある。
なんだか部屋が小さくなってきた。
ちがう。ぼくが大きくなっているんだ。
ただの光だったはずなのに、はっきりと形になってきた。目の前にあるものを口に入れてみる。
後から知るのだけど、それは指というものだった。
初めての感覚。
次第に、思うように動けなくなってきた。
思い切り体のあちこちを伸ばしてみる。
それもできなくなってきて、窮屈で仕方がない。
せまい。早くここから出たい。
ふたつ目の扉が開き始めた。
いよいよだ。
外の世界はどんなだろう?
怖いことや嫌なことがたくさんあって、
嬉しいことや、楽しいこともたくさんあるらしいって、前に会った水色の光が言っていた。
また会えるかな。
突然眩しくなった。
驚いて、ぼくは思い切り声をあげた。
世界に慣れてきて、ぼくは声をあげることをやめた。
すると部屋の中でいつも聞いてた優しい音が大きくはっきり聞こえた。
「やっと会えたね。おかえりなさい。そして、はじめまして。赤ちゃん。」
はじめまして。ぼくの家族。