扉の向こうの世界をあれこれ想像しているうちに、ついに部屋の準備が整ったようだった。
ぼくはひとつ目の扉を開け、部屋に入った。
暗いけど、温かくてふわふわする。
気が付くと、ぼくの真ん中から紐が出ていて、部屋のどこかと繋がっているようだった。
気持ち良い。
ゆらめきながら、ずっとうとうとしていると、時々何かが聞こえるようになってきた。
はっきりとは聞こえないけれど、優しい音。高い音、低い音。いくつかの種類がある。
なんだか部屋が小さくなってきた。
ちがう。ぼくが大きくなっているんだ。
ただの光だったはずなのに、はっきりと形になってきた。目の前にあるものを口に入れてみる。
後から知るのだけど、それは指というものだった。
初めての感覚。
次第に、思うように動けなくなってきた。
思い切り体のあちこちを伸ばしてみる。
それもできなくなってきて、窮屈で仕方がない。
せまい。早くここから出たい。
ふたつ目の扉が開き始めた。
いよいよだ。
外の世界はどんなだろう?
怖いことや嫌なことがたくさんあって、
嬉しいことや、楽しいこともたくさんあるらしいって、前に会った水色の光が言っていた。
また会えるかな。
突然眩しくなった。
驚いて、ぼくは思い切り声をあげた。
世界に慣れてきて、ぼくは声をあげることをやめた。
すると部屋の中でいつも聞いてた優しい音が大きくはっきり聞こえた。
「やっと会えたね。おかえりなさい。そして、はじめまして。赤ちゃん。」
はじめまして。ぼくの家族。
4/1/2025, 12:36:47 PM