『桜』
あなた、見て。桜が満開よ。
おお、きれいだなぁ。
天気も良いし、久しぶりに花見でもするか。
ふふ。子どもたちが小さいときは、お弁当持ってよく行ったわね。
懐かしいなぁ。弁当か。お前が作ってくれた肉巻きとごま和え、うまかったよなぁ。
外で食べるといつも以上に旨く感じるの、あれは不思議だよなぁ。
子どもたちは唐揚げとおにぎりばっかり食べてたわね。あと玉子焼。
そうそう。野菜は食べなくてなぁ。はは。でも、子どもたちもすっかり大きくなっちまって。今…あれ?いくつだったか。
そうね。あなたも歳をとったものね。
お前は変わらないなぁ。俺ばっかりじいさんになっちまった。
ふふ。しわしわになったあなたも悪くないわよ。
はは。そうか。しわしわかぁ。まいったなぁ。
こうやって、お前と話すのは楽しいもんだなぁ。
もっと早く気付いてれば良かったよ。
そうよ。楽しいのよ。私はとうに気付いていたわよ。だからこれからまた、たくさんお話しましょうか。
ああ、そうだな。楽しみだ。
窓際のベッドの上で、老人はゆっくりと眼を閉じる。
ベッド横の棚には、穏やかに微笑む初老の女性の写真。風がふんわりと、一枚の桜の花びらを運んできた。
4/5/2025, 1:46:08 AM