豪雨だった。
休日返上で事務所で作業して、仲の良い同僚や君と別れた帰路。私は、情けないことに道端にしゃがみこんでしまった。
雷が鳴り響く真っ黒い空が、すべてをさらってしまいそうで、みんながいなくなってしまいそうで、また、守れないんじゃ、ないか、と、怖くて、動けなくなって、うずくまってしまった。
あのときも、豪雨の夜だったのだ。
眠ると古い記憶が蘇るから、仕事がなくても
起きていたりして、どんなに怒られても、呆れられても、眠りたくはなかった。運の悪い事に、最近、君と最後にあった日の夢を見た。豪雨の中で、霞む視界に映る君の顔は忘れられないだろう。本当に、悪いことをした。大切な人は、いつも私よりも長生きしてくれた。反対に考えれば、私は、人より先に人生を終わらせてしまったということだ。悲しんでくれる人は、いたのだろうか。
足音が聞こえる。そろそろ、立ち上がらなければ。
傘も落としてしまったから拾って、鞄は防水性だから中の書類は無事だろう。ここからだと家よりも事務所のほうが近いから一旦戻るか、いや、どうせ今晩中にはやまないだろうしこのままでも…
嗚呼、気持ちが悪いなあ。
足音が止まったと同時に、ばらばらと雨音が大きくなる。私に降っていた雨雫も、止んだような。
振り返ると君がいて、なにも言わずに手を差し伸べてくれた。
なんで、君は、いつも私も守ってくれる。
歪んだ私の顔を、雨が静かに隠した。
きっと、
なんでもない一日だった。
なんでもない一言だった。
なんでもない一時だった。
なんでもない店で、なんでもない食事をして、なんでもない話をして、なんでもない道を歩いて、なんでもない日常だといった。
どこにでもある1日だった。
どこにでもある一言だった。
どこにでもある一時だった。
どこにでもある服を着て、どこにでもあるサンドイッチを食べて、どこにでもある景色を見て、どこにでもある看板を読んで、どこにでもある日常だといった。
確かにそこにあったのだ。
なんでもないし、どこにでもある、日常だけれど。
私の幸福は、いつも君たちが持っていたのだ。
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子供の頃は
一年後
最近時間取れない
相合傘
雨は降っていなかった。
ひとけのない静かな国は、たった数週間前に滅びていた。じろじろと太陽に監視されているこの国には、もう誰もいない。
たった今、八人の人影が国に入ってきた。
七人の青年と、一人の少女だ。
彼らは少しの間、ぞろぞろと国をみてまわった。
危険がない事が分かると、ばらばらになって観光を始める。
少女が大きな傘を開いて持ち上げる。かなり重たそうに見えるが、彼女は涼しい顔をして歩き出す。
と、そこに一人の青年が戻ってきて、彼女の傘を取り上げる。なにか二言三言喋ったあと、二人は並んで歩き出す。丸い影に守られる少女の、横に立つ青年の肩は、太陽に覗かれていた。
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あなたがいたから
いつか書く
あいまいな空
雨の日が好き。
古い本の匂いが好き。
甘い和菓子が好き。(干菓子なんかは最高だ)
塩辛い煎餅も好き。
暗い夜が好き。
孤独な時間が好き。(不安が渦巻く日は特に)
傷つけるのが好き。
溺れるのが好き。
嫌われるのが好き。(ホントはどうか知らないけど)
冬の殺風景が好き。
広い空が好き。
みんなのことが好き。(もちろん君は大嫌いだ)
晴れた日が嫌い。
真新しい金属の匂いが嫌い。
甘ったるい洋菓子が嫌い。(チョコケエキはだめだ)
激辛のラーメンも嫌い。
明るい日差しが嫌い。
大勢で過ごすのが嫌い。(女好きの男は特に)
守られるのが嫌い。
助けられるのが嫌い。
好かれるのが嫌い。(恐怖に耐えられなくて)
夏のネオンが嫌い。
息苦しい部屋が嫌い。
私の敵が嫌い。(もちろん君は大好きだ)
私の、好き嫌い。
君にも秘密の、隠し事。
何億年も隠し通している、私の秘密。