夜叉@桜石

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5/2/2024, 12:37:57 PM

消えてしまう気がして、目を醒ました。
いや、正確には眠っていたわけではないのだが、意識が、過去から戻ってきた感じだ。
ずいぶん長い時間が経ったようなのに、ローマ数字の置き時計はさっきから一分も進んでいない。
何をしていたんだったか。
ここは、私の部屋。いつもの家具の配置、天井まで平積みになった本や書類。今、私はベッドに座っているが、この上に広げていた資料はどこへやったっけ。カーテンが翻り、紅い光が射し込む。置き時計の回転振り子に反射して、私を包む空気が紅く染まった。かつて死の間際に見た景色が頭をよぎり、スッと表情に影がさした。
ドアが開く音がして、とっさに身構えるが、入ってきたのは彼だった。
そういえば、昨日から一日休みをもらったのだが、逆に無理をしてしまったらしく、医局まで連行されたことを思い出す。昼過ぎに帰ってきたが、仕事をしている時にいきなり呼び出されたのは肝が冷えた。まあ、その後医局からの帰りに倒れるまで自分でも不調に気づかなかったのだから、気がついた彼は本当にすごいと思う。本当に。
私を心配して、なにか質問しているようだが、頭に靄がかかったようで、正直、話が入ってこない。
気持ち的にはかなり回復したつもりだったが、体の方は思うより重症だったようだ。重傷でもあるが。
異能力も、魔法も、術も、禁止されてしまって、体調を取り繕うことができない。どうやって誤魔化そうか、と考えたところで、どうやら私は普段から、無意識のうちに様々なことを誤魔化しているようだ、と気がつく。
早く仕事をしなければいけないのに、いや、期限付きのものは1ヶ月先の分まで終わらせたんだった。
でも巡回警備がある、いや、当番は来月からだ。
友達に頼まれていた機械修理、も、この間終わらせた。
あれは、終わった、これは、終わった、あのときの、も、終わった。
あれ…?なにも、すること、ないじゃないか。
休んでいる暇はないのに、することがなくなってしまった。どうしよう。なにか、役はないか。
演じなければ、私を、つくらなければ。
いつもの私は、なにをしていた?
なにが好きで、なにが嫌い?
するべきことは、なに?

なあ、頼むから優しくしないでくれよ。

私は、やらなくてはいけないんだ。
なにを?
守らなくては。
誰を?
早く、速く、はやくしなくちゃ。
なんで?

嗚呼、どうしよう。
そんな目で、見ないで、看病も、しなくていいから、友達にも、知らせないで、待って、いかないで、救けなくて、いいから、一人に、しないで、あっちに、行って…
なにを考えているんだろう。矛盾、矛盾、矛盾。
おかしいな、これくらい一人で、耐えられるだろう。家に、一人は寂しいな。いや、おかしいよ。
なんだ?変だな。思考がまとまらない。頭は動かないのに、眠れない。君はずっとここにいるつもり?私なんかの相手、つまらないでしょう?仕事もあるだろうし。帰っていいよ。食事?ちゃんと取るからさ。薬も、飲むよ。寝れるかは、わからないけれど。ちゃんと休むよ。一人で、いいからさ。迷惑かけたくないんだ。みんなに、離れてほしくないんだ。だから、一人にしてくれないか。

だから、優しくしないでよ。

5/1/2024, 10:17:46 PM

私の世界はいつもモノクロだった。
色は意味を持たず、ただものを識別するためだけにある。
絶景など見たことがなく、役割を果たすためだけにすべてを記憶してきた。何も面白くない日々が、しんしんと過ぎていった。ずっとこんな生活を続けるんだろうと思っていた。広い世界に、ひとりで、この役割を担うのだろうと。ずっと、ずっと、ずっと。

でも、違った。

ある日、いつも別行動だった彼らと会うことになった。最初の日に顔を合わせてから、一度も目にしなかった姿を見ることになった。彼らは時々集まっていたらしく、仲が良かった。
なんだか私だけ、初めて会うような気がした。
彼女は、気を使うように、あいつは、突然入ってきた異物を警戒するように、みんな私を良くは思っていないようだった。ただ、彼は私と初めから友達だったみたいに、馴れ馴れしくしてきた。
最初は鬱陶しいだけだったが、しだいに他のみんなも喋ってくれるようになった。
その時、私は初めて楽しいと思えることができた。
毎日、次に彼らと会える日が楽しみになった。
モノクロの世界に、だんだん色がついてきて、アレとの戦いに初めて勝って、仲間と打ち上げをしたときには、私の世界はカラフルだった。
このときは毎日が輝いているようで、表情が乏しい私も少し感情表現がうまくなったと思う。
まあ、素晴らしいと思ったものこそ、なくなるのも早くて。
一人、また、一人。
役目を果たして消えていった。
今はもう、彼と私しかいない。
私の輝く毎日は、少しずつ黒ずんで、ぼろぼろ崩れていって、もう面影がない。
仕事もするし、笑顔で振る舞うし、友達と馬鹿やってるし、何も変わらないけれど。
時々刺さる、彼の視線は、少し、痛いなあ…と思ってしまう。しょうがないのに。意味はないのに。
なんでそんな目をするんだよ。
私、元気だし、大丈夫だよ。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
無理するな、なんて言わないでさ、頑張れって言ってよ。そうすれば、私はまた君たちのために全力で生きるのに。ねえ、お願いだからさ。

一人にしないで。

嗚呼、こんなことなら色なんかつけなければ良かった。ずっとモノクロの世界に一人で生きてれば良かった。思い出なんか作らなければ良かった。
間違いを正してくれたのは彼女なのに。
ルールを教えてくれたのはあいつなのに。
願いを叶えたのは彼のためなのに。
君たちがいたから、私は、生きる意味があったのに。
なんで、失わなければいけないんだ。

カラフルな世界を墨で塗って、私は心に蓋をした。
演技なら、得意なんだよ?

でも、時々思う。
誰でもいいから、気づいて。
ねえ、お願い。
誰か、t▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓▓

4/29/2024, 10:37:18 AM

新しい人生が始まった私は。
風に乗って、彼からの便りが来るのを、ずっと待っている。

4/27/2024, 10:17:21 AM

生きているのに、意味はない。
ただ、役目を果たして死ぬだけだ。
でも、もし生きたいと思えるものが、生きる意味なのだとしたら。

彼が、
あの子が、
彼女が、
あいつが、

みんなが、私を見てくれるから。
私を引き留めるから。
きっと、それが

私の生きる意味

4/26/2024, 10:50:43 AM

今回の人生は悪役らしい。
私は魔王城の最高幹部の子供として生活中だ。
称号こそないものの、年齢さえ高ければ幹部にも匹敵すると噂されているらしい。
訓練も、座学も、魔法も満点首席をまもっていたが、本当は、地位に興味はなかった。
親に殺される。
まだアレも現れないというのに、無駄死にはしたくないだろう。
今回の親は完璧主義だった。勉強も、運動も、魔法も、すべてが完璧でないといけない。そうでないと許されない。これが一族の家訓だそうだ。
まったく意味のないことをする一族だ、と笑うところだが、私もここにいるため、縛られるしかないのだった。
いつもの彼は人間で、勇者一行と旅をする戦士らしい。彼らしい、いい職だ。似合っているね。
私は、明日荷物をまとめて逃げ出すつもりだ。
もちろん倉庫からたくさん食料と武器を奪って。
殺されるかもしれないけれど、まず彼に会いに行こう。まあ、運が良ければ人間と間違えてくれるかもしれない。私、人型だし。
善悪は、誰かがかってに決めたものだ。
縛られる必要なんて、ないじゃないか。

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