ゆじび

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10/4/2025, 1:34:22 PM

「今日だけ許して」


光はずっと輝いているべき。
ずっとずーっと人を照らしているべき。
私は光であり続けるべき。

アイドルは人に生きる力を与える。
ならアイドルの生きる力は何処から生まれてくるのだろうか。
あの笑顔は。あの愛は。
いったい何処からやって来るの?


私はみんなの光。
ステージで笑い時には努力していつまでも立ち続ける
アイドルには裏の顔があってはいけない。
分かっているが私には「裏の顔」がある。
それは経った一人の彼に恋する乙女の顔。

彼は言っていた。
アイドルはきっと自分の生命を人に与えられるような素晴らしく優しい人達なのだと。
私はその時すぐに言い返したくなった。
生命がなくなったアイドルはどうなるの?
そんなに優しい人なんていない。って。
でも言えなかった彼は「アイドル」の私が好きだから。

彼は私のファンだった。
私がデビューしたときからずっと応援してくれていた。人気が伸びない私のそばにずっと居てくれた。
握手会の度に私にアイドルの素晴らしさを語り、
最後には私に愛を囁いてくれる。
大好き。またね。頑張れ。
彼の言葉がずっとあるなら私は幸せだ。

彼に恋心を持ったのはいつだったか。
いつのまにか恋に堕ちていた。
ずっと彼のそばに居たいと思った。
それと同時に彼はきっと「アイドル」ではない私を
愛すことはない。
泣きたい気持ちだった。
禁断の恋なのだと分かって。
苦しい。この恋心をいつまでも彼には告げることが
出来ないなんて。

彼に対する恋心はいつの間にか「邪魔」になっていった。叶わぬ恋を抱いていたくない。
だから私は彼の目をいつものように見つめられなくなった。申し訳ないけど身体が言うことをきかなくなった。


彼は私のことが嫌いになったのかな。
目を見つめられなくなってから、彼が私に囁く愛が
なくなっていった。
ごめんなさい。貴女の光になれなくて。
ごめんね。


久しぶりの握手会。
少しの憂鬱な気分。
彼はきっと来てくれる。
分かっていて少し嬉しい。
けれどそれ以上の罪悪感があった。

彼の番になった。
なにも喋らなくて、気まずいときが流れた。
もう少しで終わってしまう。
これが最後になってしまう気がした。
彼が口を小さく動かしていった。
「僕が気持ち悪くなってしまいましたか?
最近元気のないのが僕のせいなら僕はここに来るのをやめますね。」
私はとっさに彼の顔を見上げた。
泣きそうで苦しい顔。
私がさせて言い顔じゃない。
彼は続けていった。
「今まで僕の光になってくれてありがとうございました。なにか悩んでいることがあるなら一人で抱え込まないでくださいね。」
そう言って笑った顔がとても痛々しくて。
私の心も締め付けられた。
彼が去っていく。
私は我慢できなくて会場から飛び出した。


「待ってください。」
私が言った。思っていたよりも大きな声が出た。
涙が零れた。
今の私、今までにないくらい取り乱している。
アイドルなのに。
こんなにも彼を愛したくて仕方がない。
「どうか、アイドルらしからぬ私を今だけは許して。」
彼が振り返って言った。
「貴女は、どうして最後まで僕を虜にするのですか。」
彼はきっと泣いていた。
あの笑顔の奥はきっと。
「アイドルでもない。輝くことが出来ない。そんな私でも、どうか、愛してくれませんか?」
彼にこの言葉がどう捉えられたか分からなかった。
でも私は涙を閉じ込めて言う。
「愛しています。貴方はずっと私の光だった。」
怖い。どう返されるのかとても怖い。
でも私は言う。
今までに言えなかった愛を彼に。
彼は言った。
「貴方はいつまでも僕の光ですから。」
彼は泣いた。
愛する人の涙は心を抉るものばかりだと思っていた。
けれど自分の心を癒す。そんな涙が確かにあった。




これは田舎に住むおしどり夫婦の一つの惚気話。

10/3/2025, 2:48:19 PM

「誰か」


僕の頭の中を埋め尽くす「誰か」。
その人が誰なのか僕はまだ知らない。


冬の夜は異常なほどに寒く冷え込む。
外に出ると息が真っ白で、手が凍てつく。
夜の公園は誰もいない。
そんな公園で夜一人でなにも考えない時間が
僕は大好きだった。
冬は時間がで来たときには毎回通うほどお気に入りの
場所。

あの日も冬で真夜中で、月の光と僅かな電灯が
公園を照らしていた。
いつものように公園に足を踏み出すと、消え入りそうな、でも強くて芯のある歌声が聞こえてきた。
とてもうまい訳じゃない。
それでも夜の凍てつく空気を鋭く割くような。
まっすぐに耳に届いてきて、僅かな月明かりのように
耳を澄まさなければ聞こえないほどの僅かな音で。
なんだかとても悲しい声で歌うのだと僕は思った。
歌っている人の姿はわからなかったけれど歌声からおそらく女性だと思う。

それから3日に一度公園で歌声が聞こえて来ていた。
僕はいつのまにかその歌声を聴くのを目当てに公園に足を運んでいたのかもしれない。

初めて歌声を聴いたときから4ヶ月ほどが経って
すっかり冬が終わり春が訪れた。
世間は卒業式。
彼女は公園に来なくなった。
なぜかはよくわからない。
でも彼女の声を聞くことができなくなることが何よりも辛かった。

彼女が来なくなって4ヶ月ほど経った夏休み。
夜の少しの生ぬるい空気が漂う公園で僕はまた一人でいた。
なにも考えずにベンチに座って。
すると何処からともなく歌声が聞こえてきた。
とてもうまい訳じゃない。
けれど空気を確かに揺らし耳に届く歌声。
これはきっと彼女の歌声だ。
でもあの頃とは違うことがあった。
彼女の歌声がなんだか人を思いやるような
温かい希望に溢れているようだった。

彼女に何があったのか知らないけれど
きっと彼女の気持ちが晴れるようなことがあったの
だろう。
それは良かった。



今日も公園に行く。
もしかしたら彼女が、いるかもしれないという
期待を持って自分の気持ちを晴らすために。
明日を頑張れるように今日も公園に足を運ぶ。

10/1/2025, 3:39:16 PM

「秋色」


空が少し濁った空色になって。
肌寒い風が吹く。
肌から温度を拐って代わりに少しの風を送ってくる。

踏み切りの前。
赤い光が点滅する。
鼓膜を刺激させて危険さを訴える音がする。
黒と黄色の警戒色である棒が降りてくる。
電車が視界の端から端へと進む。

見慣れた街並み。
家だらけ。
道は狭い。けれど鬼ごっこをするには十分。


色んな景色を眺めて知って。
「秋色」に染まる町を。
「冬色」に染まる海を。
「春色」に染まる空を。
「夏色」に染まる山を。
知って。知って。
それはいつも貴女と一緒だった。

今年も秋が近づいてくる。
秋色に染まる町を眺めて。
寒さで秋色に染まる貴女の頬にそっと触れて。
ひんやりとした風になびいた貴女の髪にそっと触れ。


今年も秋が近づいてくる。
止まることのない。
貴女との人生が秋色のような幸せに染まっていくように。
今日も願う。



貴女とずっといられるように。

9/28/2025, 2:06:29 AM

「涙の理由」


僕が泣かせてしまったあの娘は今は僕の近くにいない。

中学三年生の夏頃。
去年まではお手本となる先輩がいたけれど今年からは
自分達が学校の代表。
受験とか進路とか恋人との遠距離恋愛の始まりだとか
模試とか悩むことがたくさんで、恋人との時間はあまりなかった。
来年の今頃は何をしているのか分からずに少し不安で
心臓に重く、深くなにかが乗っかっているような感じがする。

大好きな彼女も友達も家族も何もかも自分を支えてくれていることは分かっている。
それでも少しプレッシャーがかかる。
全て投げ出して逃げてしまいたい。

学校からの放課後。
少し。本当に少しだけど恋人とコンビニに行って駐車場でアイスを食べた。
少し溶けていたけど心がひんやりするように。
心が少し楽になった。



中学三年生の冬。
いよいよ受験間近。
不安なこともたくさんあって。
苦しいこともたくさんあって。
今までの事を振り返るにはまだまだ早いと分かっているけれどやっぱり考え深い。
少し前まで高校生に早くなりたいと思っていたのに
今はもう少しだけ中学生でいたい。

恋人の近くにずっといたい。

恋人と神社に行った。
お守りを買って家に帰ってまた勉強。
早くこの生活が終わればいいのに。





受験が終わった。
疲れた。眠ってしまいたい。
けれど今は恋人に逢いたい。

恋人にあった。
彼女は僕に言った。
「別れよう」って。
なんでか聞く前に彼女はなぜか泣き出した。
僕を支えてくれた彼女が泣いている。
強くて立派な彼女が。
「なんで泣いているの?」
と僕が聞いても彼女は
「女の子に泣いてる理由は聞いちゃだめだよ。」
というだけだった。
僕はなにも言えずに泣いてる彼女を抱き締めることしかできなかった。


彼女の家族は遠くへ引っ越したらしい。
どうやら僕の恋人はビルの屋上から飛び降りたらしい。もう死んでしまったらしい。
彼女はきっと僕に別れを切り出したときにはもう
死のうと思っていたのだろう。

なんとも言えない重みが心に響き広がっていく事を実感した。

9/20/2025, 11:28:26 AM

「既読のつかないメッセージ」 


「好きです。」
そう言った。
でも、貴方を目の前にしたら緊張できっと私は
「好き」なんて言葉に出来ないから。
だから私はLINEを送った。
思っていたよりもすぐに既読がついて貴方は私に
「会いたい。」と送ってきたね。
断られるんじゃないかと思って私は会いに行くのが怖くてしかたがなかった。

そんなことも色々あってもう付き合ってから3年。
長いようで短い時間だった。
私は逆プロポーズでもしようと思ったの。
だから私は貴方にLINEで送ったよ。
「会いたい。」ってあの日の貴方のLINEと同じように
勇気が必要だったけど。
あの日の貴方もきっとこんな気持ちだった。
私のために振り絞ってくれた勇気が確かにあった。
それだけで私に幸せな気持ちが身体いっぱいに暖かく広がった。。

既読がついて。
貴方から「了解」と送られてきた。
きっと貴方は私がプロポーズをするって思ってもないでしょうね。
貴方の驚く顔がとても楽しみ。

待ち合わせの公園。
昔私が住んでいた家の近く。
よくここで話したな。あの日もここで告白をした。

おかしい。
待ち合わせ時間から1時間以上経ってもまだ貴方は
来ない。
貴方はこんなに遅刻することなかったでしょう?
なのにどうして。
胸が騒ぐ。嫌な予感が心を締め付ける。
彼は大丈夫なのかしら。
....遅刻したって怒らないから。無事ならばすぐにここに来て欲しい。

電話がかかってきた。
もしかして貴方からかと思ってすぐにスマホを取り出した。
貴方ではなかった。貴方のお母さんからだった。
あぁ。嫌な予感とは本当に当たるのね。



彼はもういない。
涙も枯れ果ててなにも出てこない。
目が痛くて開きにくい。
そもそもあまり寝れていないから眠くて瞼が重たい。
なにも喉を通らなくて。
お腹が空いた。
いつ貴方が遊びに来ても大丈夫なようにいつも綺麗に保っていた私の家もすっかり汚れている。
息を吸うことも吐くことも億劫だ。




「逢いたい。」
LINEで送った。
既読がつかないメッセージ。
既読などつくはずもないメッセージ。
このメッセージは誰にも知られずに消えていって
しまうだろう。
それも良いのかもしれない。
誰にも知られずに消えていったこのメッセージが
きっと天国にいる貴方に届くといいなぁ。

逢いたい。
会いたい。
置いていかないで。

貴方だけが死んでいく。
私はどうしてこうなってしまったのかも分からない。


いつか貴方に逢えますように。
それだけを私は願うのです。


瞼が重たいようやく眠りにつけそうだ。





『ピコン。』
スマホがなった。
誰からなのか分からない。
だって私はもう眠たくて指一つ動かないから。
でも、視界の片隅になんだか貴方からLINEが来たと
写し出された気がする。
私は少し安心してそっと瞳を閉じた。














『貴女にもう一度逢いたかった。』





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