驕ったのだ。
そう、老婆は語った。
代々の、というほどは長くはないが、故郷と呼ぶには十分な時間を、そこで費やした。その街を捨てるという選択をしたことは、大きな決断だった。
否、その決断は迫られただけのこと。
最初から、この街を作ったこと自体が、誤りであったのだ。
驕り⸺ただの人間にすぎない我々が、太陽に近づこうとした結果が、その翼をもがれるというこの状況になった。
しかしね。と、老婆は目尻を緩めた。
わたしたちは、街を捨てたけれども、街を焼くことはできなかったのだよ。
許されざる存在だとしても、わたしたちの故郷だったからね。
いつか、いつか我々がその驕りを許されるのならば。
我々は故郷に帰れることもあるのかもしれない。
ひとは、変わっていけるものなのだから。
『変わらないものはない』
おれたちといえど、一枚岩じゃない。
いろんな考えのやつがいて、それを善しとするやつ、しないやつ、どっちでもないやつ、傍観してるやつ、何も考えてないやつ……ほんとにいろいろだ。
人間だってそうだろ?
だから、おれたちは似た者同士。
今までどおり、つかず離れずやっていこうぜ?
『仲間』
穏やかな日差しの午後、庭のガゼボでひとり本を開く。
それは、ずっと前からの習慣。
いえ、どちらかと言うと、願掛けなのかもしれない。
ここで待ち続けていれば、いつの日か、ここに現れるだろうという、願掛け。
人生にひとつくらい、どうにもならないことを、ばかみたいに信じ続けてもいいんじゃない。
『やわらかな光』
ここ自体には不満はあれど、あの場所を出たことには、後悔はしていない。
ひとつだけ、心残りがあるとすれば、まだ小さい孫にお別れを言わずじまいだったことだ。
いつか。遠い日のいつか。
また孫に会えたら、あのときのことを詫びようと思う。
今ごろは、そうさな、この人間くらいの年頃になってるころだろうな。
『巡り会えたら』
誰かに呼ばれている気がして、歩きだしてみた。
ここがどういう所なのかも、どこまで広がっているのかも、何一つわからない。
耳を澄ますと、かすかに水の音が聞こえてくる。
それは草すら生えていない砂まみれのこの世界で、確かに生命が息づいている証拠だった。
とても澄んだ、どこまでもきれいな水。
この世界の生命は、自らの命を燃やし、代々この水を守ってきているのだろうか。
自分たちがどれほど小さな存在なのか、見につまされる。
この世に生まれてはいけないものなどないのだ。
その意味が、それぞれによって違うだけで。
『声が聞こえる』