ももく

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12/26/2024, 11:02:05 AM

 驕ったのだ。
 そう、老婆は語った。
 
 代々の、というほどは長くはないが、故郷と呼ぶには十分な時間を、そこで費やした。その街を捨てるという選択をしたことは、大きな決断だった。
 否、その決断は迫られただけのこと。
 最初から、この街を作ったこと自体が、誤りであったのだ。
 驕り⸺ただの人間にすぎない我々が、太陽に近づこうとした結果が、その翼をもがれるというこの状況になった。

 しかしね。と、老婆は目尻を緩めた。

 わたしたちは、街を捨てたけれども、街を焼くことはできなかったのだよ。
 許されざる存在だとしても、わたしたちの故郷だったからね。

 いつか、いつか我々がその驕りを許されるのならば。
 我々は故郷に帰れることもあるのかもしれない。
 ひとは、変わっていけるものなのだから。


『変わらないものはない』

12/10/2024, 10:22:33 AM

 おれたちといえど、一枚岩じゃない。
 いろんな考えのやつがいて、それを善しとするやつ、しないやつ、どっちでもないやつ、傍観してるやつ、何も考えてないやつ……ほんとにいろいろだ。

 人間だってそうだろ?
 だから、おれたちは似た者同士。
 今までどおり、つかず離れずやっていこうぜ?



『仲間』

10/16/2024, 12:05:40 PM

 穏やかな日差しの午後、庭のガゼボでひとり本を開く。
 それは、ずっと前からの習慣。
 いえ、どちらかと言うと、願掛けなのかもしれない。
 ここで待ち続けていれば、いつの日か、ここに現れるだろうという、願掛け。
 人生にひとつくらい、どうにもならないことを、ばかみたいに信じ続けてもいいんじゃない。


『やわらかな光』

10/4/2024, 9:42:31 AM

 ここ自体には不満はあれど、あの場所を出たことには、後悔はしていない。
 ひとつだけ、心残りがあるとすれば、まだ小さい孫にお別れを言わずじまいだったことだ。
 いつか。遠い日のいつか。
 また孫に会えたら、あのときのことを詫びようと思う。
 今ごろは、そうさな、この人間くらいの年頃になってるころだろうな。


『巡り会えたら』

9/23/2024, 9:31:29 AM

 誰かに呼ばれている気がして、歩きだしてみた。
 ここがどういう所なのかも、どこまで広がっているのかも、何一つわからない。
 耳を澄ますと、かすかに水の音が聞こえてくる。
 それは草すら生えていない砂まみれのこの世界で、確かに生命が息づいている証拠だった。
 とても澄んだ、どこまでもきれいな水。
 この世界の生命は、自らの命を燃やし、代々この水を守ってきているのだろうか。
 自分たちがどれほど小さな存在なのか、見につまされる。
 この世に生まれてはいけないものなどないのだ。
 その意味が、それぞれによって違うだけで。


『声が聞こえる』

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