ここではない、どこかで
「なあ、俺と一緒に逃げちゃおうか。」
君がいつもする他愛のない話のように俺に言う。
「どこに?」
「どこだろうな。ここじゃない、どっか遠い遠い所」
「ふはは、なんにも決まってないんじゃん」
「誰も知らないところに行って、俺たちのことを知ってる人もいない何もかも新しい環境で俺と一緒に新しい人生を始めよう。」
「うん、いいかもね」
君と一緒なら、どこへだって行くさ。君と一緒ならどこでだって幸せになれるような気がするから。だけどここじゃだめだった。世間の目、親の反対、周りの心無い言葉。俺たちはそんなに悪いことをしているのかな。好きな人と一緒に居たいただそれだけの事がこんなにも難しいと思わなかった。周りのカップルを見る度に羨ましかった。好きだって言い合って、堂々と手なんかも繋いじゃって、友達や親にも恋人だって紹介できて、後ろめたさを感じることなく恋愛できることが本当に羨ましかった。
俺はただ、君と幸せになりたい。ここではない、どこかで。
届かぬ想い
俺がどんなに君を好きでいても、この想いはきっと届くことはないのだろう。初めて君に出会ったのは中学校の入学式で、たまたま席が隣で話してみたら気があってよく遊ぶようになった。登下校も放課後も一緒。君と過ごすうちに気づいたんだ、俺はきっと君に恋してるんだって。君に彼女ができる度に苦しくて悲しくてもう嫌われてもいいからこの気持ちを伝えてしまおうかと何度も思った。だけどやっぱり君との関係が壊れるのが怖くて何も言えずに笑って祝福した。
好きのたった二文字が言えなくて、それを君に堂々と言える彼女に嫉妬した。君の隣は俺の場所なのに、って告白する勇気も無いくせに一丁前に独占欲があって自分に吐き気がする。
俺のこの届かぬ想いをいつか伝えられることが出来たならどれだけ幸せな事なのか、といつも思う。その時は来るのか。もしかしたら来るかもしれないし、君が死んだ後にこっそり伝えられるのかもしれない。それはまだ分からないけど、俺はどんな形であれいつまでも君の隣にいたいと思ってる。
言葉にできない
君が好きで、大好きで、本当に愛してる。
ゲームに夢中になってる横顔も、映画を見て泣いてる姿も、子どもみたいにはしゃいでる姿も、俺を見つめる瞳も俺の名を呼ぶ声も全部、全部好き。大好き。
誰にでも優しくて、でも俺には人一倍優しい所も、文句を言いつつも結局は俺に付き合ってくれる所も、芯が通っていてきちんと自分を持っている所も好き。
君の全部が好き。大好き。愛してる。
でも、これはきっと愛している以上の感情なんだと思う。
俺じゃ言葉にできない。愛している以上の、何か。
誰よりも、ずっと
誰よりもずっと近くでお前を見てきた。ずっと一緒にいたから、お前がカッパの都市伝説を信じて夜眠れなかったことだって知ってるしお前の初恋の相手だって知ってる。初恋の相手は隣のクラスのハルちゃん。一緒の委員会になれたって喜んでたな。でもハルちゃんは俺のことが好きだったらしい。ある日の帰りお前が俺に「ハルちゃんお前のこと好きなんだって」って泣いて言われたから俺は正直に「ふーん。眼中にもなかった」って返したらめちゃくちゃに怒られて3日は家に迎えに行ってもいくら話しかけても無視されたなんて事もあった。
誰よりもずっとお前のこと知ってる自信あるし好きだって自信もある。お前をこの世界の誰よりもずっと幸せにできるって自信だってもちろんある。ただ、俺にはお前に自分の気持ちを告げる勇気はないんだ。今まで築き上げてきたこの関係が変わってしまうのが怖い。もし、お前に拒否されて友達ですら居られなくなってしまったら俺はどうすれば良いのか分からない。
これから先の俺の未来にどんな形であろうとお前が隣にいて欲しいから、この一歩を踏み出す勇気がでない。
だけど、誰よりもずっとお前のこと近くで見てきたからお前が人の気持ちを踏み躙る真似はしないって知ってる。
だから今、お前に俺の気持ちを伝えてみようと思うんだ。
「なあ。誰よりも、ずっとお前のことが好きなんだ。」
好きじゃないのに
皆が思い思いのことを話していてガヤガヤしていても君の声だけははっきりと聞こえる。気が付けばいつも君を目で追っている。自分でも不思議に思い友達に相談してみたら「好きなんじゃない?」って。俺は全然、好きじゃないのに。
君と話せると嬉しくて、遊べるともっともっと嬉しくて、もっとずっと一緒にいたいなんて思っちゃったりして。ほんとに、俺は君の事なんか好きじゃないのに最近調子が可笑しいんだ。
まあそのうち治るだろうって思ってたのに、君といる時間が長くなってからどんどん悪化していく一方。誰にでも優しくしないで欲しいとか、俺だけを見ていて欲しいとか、まるで俺が君に恋してるような、そんな感覚になってしまう。
そんな中、君に告白された。
「お前のことが好きなんだ。」
「俺、男だよ?」
「そんなの見れば分かる。」
「だよね」
「お前は、俺のこと好きじゃないのか?」
「好きじゃないよ。」
「なんで?」
「なんで、って言われても」
「じゃあ、俺が女だったら?」
「分かんないよ。ただ、最近は調子が可笑しいだけ。」
「どんな風に?」
「君のこと目で追っちゃったり、俺だけ見てて欲しいなぁ、なんて思っちゃったりしてさ、変なんだよ。」
「なあ、それはもう俺のこと好きじゃん。」
「友達としてってことでしょ?」
「いや、付き合いたい方の好き」
彼は一体何を言っているんだろうか。俺も君も男で、世間の目は冷たくて、好き同士でも、いくら愛し合っていてもこの国での結婚なんて出来なくて 、外で堂々と手を繋ぐことだって出来ない。
「だから、好きじゃないって」
俺は、怖かったんだ。自分が好奇の目で見られたら、って思うと。もし、付き合えて苦しくなることが嫌だったんだ。だからもういっその事、自分の気持ちに気付かないふりをしちゃおうって、そう思った。
「なんで。俺は、お前と居られたらそれだけでいい。周りなんて気にしなくていい」
「君が気にしなくたって周りの人はそういかないでしょ。」
「大丈夫だから、俺が守るから。自分の気持ちに嘘付かないでくれ。」
「そんなの口だけでなんとでも」
言えるでしょ、そう続けるはずだった言葉は出てこなかった。
彼の顔を見てしまったから。何時もとは全く違う、真剣な目で俺を見ていた。ああ、もうこれは俺が何を言おうとどんな態度を取ろうと諦める気は毛頭ないんだなと、そう思わせる目だった。
「な?だから、俺と付き合ってくれない?」
「はあ、降参です」
これも惚れた弱みというやつだろうか。もう何を言ってもダメだと確信して、大人しく君の恋人という特権を貰っておくことにした。