Open App

好きじゃないのに

皆が思い思いのことを話していてガヤガヤしていても君の声だけははっきりと聞こえる。気が付けばいつも君を目で追っている。自分でも不思議に思い友達に相談してみたら「好きなんじゃない?」って。俺は全然、好きじゃないのに。
君と話せると嬉しくて、遊べるともっともっと嬉しくて、もっとずっと一緒にいたいなんて思っちゃったりして。ほんとに、俺は君の事なんか好きじゃないのに最近調子が可笑しいんだ。
まあそのうち治るだろうって思ってたのに、君といる時間が長くなってからどんどん悪化していく一方。誰にでも優しくしないで欲しいとか、俺だけを見ていて欲しいとか、まるで俺が君に恋してるような、そんな感覚になってしまう。
そんな中、君に告白された。

「お前のことが好きなんだ。」

「俺、男だよ?」

「そんなの見れば分かる。」

「だよね」

「お前は、俺のこと好きじゃないのか?」

「好きじゃないよ。」

「なんで?」

「なんで、って言われても」

「じゃあ、俺が女だったら?」

「分かんないよ。ただ、最近は調子が可笑しいだけ。」

「どんな風に?」

「君のこと目で追っちゃったり、俺だけ見てて欲しいなぁ、なんて思っちゃったりしてさ、変なんだよ。」

「なあ、それはもう俺のこと好きじゃん。」

「友達としてってことでしょ?」

「いや、付き合いたい方の好き」

彼は一体何を言っているんだろうか。俺も君も男で、世間の目は冷たくて、好き同士でも、いくら愛し合っていてもこの国での結婚なんて出来なくて 、外で堂々と手を繋ぐことだって出来ない。

「だから、好きじゃないって」

俺は、怖かったんだ。自分が好奇の目で見られたら、って思うと。もし、付き合えて苦しくなることが嫌だったんだ。だからもういっその事、自分の気持ちに気付かないふりをしちゃおうって、そう思った。

「なんで。俺は、お前と居られたらそれだけでいい。周りなんて気にしなくていい」

「君が気にしなくたって周りの人はそういかないでしょ。」

「大丈夫だから、俺が守るから。自分の気持ちに嘘付かないでくれ。」

「そんなの口だけでなんとでも」

言えるでしょ、そう続けるはずだった言葉は出てこなかった。
彼の顔を見てしまったから。何時もとは全く違う、真剣な目で俺を見ていた。ああ、もうこれは俺が何を言おうとどんな態度を取ろうと諦める気は毛頭ないんだなと、そう思わせる目だった。

「な?だから、俺と付き合ってくれない?」

「はあ、降参です」

これも惚れた弱みというやつだろうか。もう何を言ってもダメだと確信して、大人しく君の恋人という特権を貰っておくことにした。

3/26/2023, 12:27:54 AM