シオン

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8/27/2024, 3:18:30 PM

(現パロ)
 学校から出たら、雨が降っていた。雨の予報が出ていたらしい。最近は全くテレビを見ていないから、天気予報がよく分からない。
 たとえ天気予報を見ていたとしてもとりあえず、今の天気は雨で僕は傘を持っていない、それだけが明確な事実だった。
 さてどうしようか。雨が止むまで待っているというのも一つの手だけれども、残念ながらこれはゲリラ豪雨ではないらしい。僕が佇んでいるロッカーに来た同級生が『天気予報見て、傘を持ってきてよかった』なんて言葉を吐きながら、傘を広げて帰っていったのを見たからだ。
 天気予報で予想されるゲリラ豪雨なんていうのは、ゲリラとは言わない。つまりそういうことで。雨が止むまで待っているとなると、リアルに何時間かかるかはわからない。もしかしたら、最終下校時刻を過ぎてしまうかもしれないのだ。
 職員室で傘を借りれるなんて話も聞いたことがあるが、最近は傘の返却のマナーがなっていないらしく、そもそもそのルールが今まで適用しているかどうかもわからない。
 要するに詰んでいる。完全なる詰みだ。
 まぁ、いつ止むかわからないとはいえども、とりあえず、ギリギリまでは待っていた所存である。その間の暇つぶしはどうしようか。学生らしく、勉強でもするか。
「嫌だな……」
「何が?」
 自分で考えたその案を自分で嫌だと感じてつい口にそれが漏れた時、タイミングよく来たクラスの同級生がそう聞いてきた。
 隣の席の女子生徒だった。名前は…………何だったっけ。席替えをしたばかりで、名前を覚える気がなかったからまだわからない。少なくともすれ違ったぐらいで挨拶もしないだろうという仲ではある。つまり、僕の発言を拾われたこと自体が既におかしく、そのことで面食らうレベルには、仲がいいとは言えなかった。
「…………雨が降っているからさ」
 自分の発言が拾われてしまったからには、せめて何が答えなくてはならないという思考回路から僕は正直に自分の気持ちを述べた。
「天気予報で言ってたじゃない。見てないの?」
「生憎にも」
 そう呟くと、彼女はやれやれと首を振りながら自分の傘を広げた。紺色に猫のモチーフが描かれた傘。一人で使うには、少々本当に大きいんじゃないんだろうか。
 彼女は少々考える素振りをした後、そっと呟いた。
「傘がないならば、入れて行ってあげようか?」
「大丈夫だよ」
 そこまで仲が良くないクラスメイトに傘に入れてもらうほど、まだ危機的状況ではないだろうなんて、思考回路が働いて僕は丁重にお断りをした。が、彼女には、その答えが気に入らなかったらしい。
「…………本当に?」
「ああ。いつまで降るか僕は知らないけれど、きっとすぐに止むだろうと思うからね」
「…………やまないよ。今日の夜まで降り続けるって、弱くなったりもしないって天気予報で言ってたよ」
「…………それなら困るかもしれないな」
「そうでしょ。ならさ、ボクの傘入れば」
 そこまでして入れたい理由はなんだなどと聞きたい気持ちが少しだけ生まれてしまったけれど、でも夜まで降り続けるんだったら、断るということも良くないのかもしれない。
「それじゃあ、お言葉に甘えて入れてもらおうかな」
 僕がそう言うと、彼女は若干嬉しそうな顔をした。
 雨は僕が家に着いて数分後に止んで、天気予報を見た家族曰く『予報よりも少しだけ長引いた』とのことだった

8/26/2024, 3:47:49 PM

 青色の表紙のリングノート。それが、僕の日記帳だった。
 権力者がユートピアからいなくなってから書き始めた日記帳はこのノートですでに二十冊を越えてしまった。
 毎日毎日、彼女のことを思い出しながらエピソードを書いていく。彼女はどう思ったのか、どういうことを考えたのか、そんなことを予想しながら。
 でも、もう既に分からなくなってきた。
 彼女が消えた後にやってきた権力者ともそれなりに交流をした。もしかしたらそいつと彼女との思い出のように書き連ねてるかもしれない。
 …………それを確認するすべももうないけれど。

8/25/2024, 4:11:18 PM

 ボクは今ベンチに座っている。向かいのベンチに演奏者くんが座っている。決して隣ではない。 距離にして数メートルもない。せいぜいテーブル一個挟んだぐらいのそんな距離感だ。
 なんで急にそんなことをしてるのか、目的は何なのか、ボクには全く分からない。演奏者くんが急に提案してきたのだ。
「これ楽しい?」
 僕はそう彼に問うと、彼は少し微笑みながら言った。
「楽しいからやる訳じゃない。近すぎるとわからないこともあるから、たまには少しだけ離れた距離感で会話をしてみようなんてことを考えてみただけだよ」
 彼はカッコつけてそう言ったけれど、微妙に聞こえなかった。普段対面で話すことに慣れてしまっているからか、そこまで遠い距離でもないくせに、あまり声が聞こえなかった。やっぱりやめた方がいいんじゃないだろうか。
 でも、彼は満足そうだった。いつもと同じ向かい合わせで、でも少しだけ距離が離れていて。声も表情も読み取れるけれど、会話しなくては気持ちがわからないような、そんな状況を楽しんでいるのかもしれない。
 彼が楽しいならいっか、なんて僕は思ってしまった。
「……話しづらいね」
 ボクが思ったことを気づけない彼はそう呟いた。
「やっぱりいつもの距離感の方が、きみのことがよくわかっていいかもしれないね」
 近い距離感で話していても僕がどう思うか想像ができない彼が、そもそもこの距離感で僕の気持ちを察しろと言うのは、土台無理な話であろうということに気づいてしまった僕はそっとため息をついた。

8/24/2024, 2:57:09 PM

 窓から空を見上げながらふと、どれだけボクが彼のことを好きになっても、絶対に結ばれることはないんだなと気づいてしまった。
 彼のことが好きだ。とても、とても。
 でも、彼はきっと人間じゃなくて、そもそも敵で、だから絶対に結ばれることはなくて。
 分かっていたことだ。分かっていたはずだった。
 なのに、今とてつもなく悲しくて、苦しくて、やるせない気持ちで。
 頭の中で想像してることと現実ってやっぱり違うんだな……なんて考えたしまった。
 これも妄想だと気づいたのはそこから数分後だった。

8/23/2024, 3:32:30 PM

(現パロ)
「海に行こうよ」
 ただ隣の席になっただけの少年に、突然そんなことを言われた。 まだクラス替えをしたばかりでそもそも名前なんてよく分からなくて、面識なんて全くなくて去年同じクラスだった訳でもなくて、言うなればとにかく他人だった彼に何故誘われたのかなんて理由もわからなかったけれど、なんとなく気分が乗って『いいよ』なんて答えてしまった。
 だから、今海にいる。まだ海のシーズンではなくて、海開きだってしてなくて。だからそもそも泳げなくて、海に来て何がしたいのかなんてよく分からないけれど、春の日差しを反射してる海はとても綺麗で、幻想的な風景だった。
 特に会話はなかった。ボクも彼も言葉を交わさずに、海の方をずっと見つめていた。傍から見たら変だっただろう。無言で男女が二人っきりで海を眺めているなんて。
「…………なんで誘ったくれたの」
 沈黙に耐えかねてしまって、ふとそんな言葉をつぶやけばやけに真面目そうな顔で、彼は答えた。
「見せるって約束したのに、見せられなかったから」
 訳が分からなかった。面識はないのだ。誰かと勘違いされているのかもしれない。そう思って確認を取ろうと口を開こうとした時、彼が先に喋り始めてしまった。
「他にも見せられなかったもの、たくさんあった気がする。…………大丈夫、全部見せるよ。この世界なら見せられるから」
「ボクのことじゃないんじゃないかな、その相手」
 恐る恐るそう呟いた時、海を見ていた彼はこちらの方に向き直って、急に肩を掴んできた。
「忘れてしまったのかい、僕のこと。…………違うか、そもそも前世の記憶が引き継がれていないんだね」
「…………前世?」
 訳が分からない。前世って何だ。そもそも、人間には、前世というものがあるかどうかもわからない。それをさもあるかのように言っている。…………もしかしたら、中二病なのかもしれない。
 危険人物かもしれない。そんなことを思って、少しずつ後ずさりをしようとしたら、腕をぎゅっと掴まれて、身動きが取れなくなってしまった。
「忘れたって構わないよ。またやり直せばいい。もう二度と思い出さなかったとしても、僕は前から君のことが好きだから。きみが僕のことを好きになったら、それはもう前と同じだろ?」
 僕に対して恋をしているってわかる瞳っていうよりも、僕に対して依存しているとか執着しているとかそのように見える瞳でこちらを見つめながら、彼は淡々とそう言った。

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