シオン

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(現パロ)
 学校から出たら、雨が降っていた。雨の予報が出ていたらしい。最近は全くテレビを見ていないから、天気予報がよく分からない。
 たとえ天気予報を見ていたとしてもとりあえず、今の天気は雨で僕は傘を持っていない、それだけが明確な事実だった。
 さてどうしようか。雨が止むまで待っているというのも一つの手だけれども、残念ながらこれはゲリラ豪雨ではないらしい。僕が佇んでいるロッカーに来た同級生が『天気予報見て、傘を持ってきてよかった』なんて言葉を吐きながら、傘を広げて帰っていったのを見たからだ。
 天気予報で予想されるゲリラ豪雨なんていうのは、ゲリラとは言わない。つまりそういうことで。雨が止むまで待っているとなると、リアルに何時間かかるかはわからない。もしかしたら、最終下校時刻を過ぎてしまうかもしれないのだ。
 職員室で傘を借りれるなんて話も聞いたことがあるが、最近は傘の返却のマナーがなっていないらしく、そもそもそのルールが今まで適用しているかどうかもわからない。
 要するに詰んでいる。完全なる詰みだ。
 まぁ、いつ止むかわからないとはいえども、とりあえず、ギリギリまでは待っていた所存である。その間の暇つぶしはどうしようか。学生らしく、勉強でもするか。
「嫌だな……」
「何が?」
 自分で考えたその案を自分で嫌だと感じてつい口にそれが漏れた時、タイミングよく来たクラスの同級生がそう聞いてきた。
 隣の席の女子生徒だった。名前は…………何だったっけ。席替えをしたばかりで、名前を覚える気がなかったからまだわからない。少なくともすれ違ったぐらいで挨拶もしないだろうという仲ではある。つまり、僕の発言を拾われたこと自体が既におかしく、そのことで面食らうレベルには、仲がいいとは言えなかった。
「…………雨が降っているからさ」
 自分の発言が拾われてしまったからには、せめて何が答えなくてはならないという思考回路から僕は正直に自分の気持ちを述べた。
「天気予報で言ってたじゃない。見てないの?」
「生憎にも」
 そう呟くと、彼女はやれやれと首を振りながら自分の傘を広げた。紺色に猫のモチーフが描かれた傘。一人で使うには、少々本当に大きいんじゃないんだろうか。
 彼女は少々考える素振りをした後、そっと呟いた。
「傘がないならば、入れて行ってあげようか?」
「大丈夫だよ」
 そこまで仲が良くないクラスメイトに傘に入れてもらうほど、まだ危機的状況ではないだろうなんて、思考回路が働いて僕は丁重にお断りをした。が、彼女には、その答えが気に入らなかったらしい。
「…………本当に?」
「ああ。いつまで降るか僕は知らないけれど、きっとすぐに止むだろうと思うからね」
「…………やまないよ。今日の夜まで降り続けるって、弱くなったりもしないって天気予報で言ってたよ」
「…………それなら困るかもしれないな」
「そうでしょ。ならさ、ボクの傘入れば」
 そこまでして入れたい理由はなんだなどと聞きたい気持ちが少しだけ生まれてしまったけれど、でも夜まで降り続けるんだったら、断るということも良くないのかもしれない。
「それじゃあ、お言葉に甘えて入れてもらおうかな」
 僕がそう言うと、彼女は若干嬉しそうな顔をした。
 雨は僕が家に着いて数分後に止んで、天気予報を見た家族曰く『予報よりも少しだけ長引いた』とのことだった

8/27/2024, 3:18:30 PM