この世には神さまがいる、らしい。
そんなことを演奏者くんが言っていた。
言ってないことも、誰にも秘密にしたことも、全部全部神さまは知っているのだと、そう偉い人が言ってたのを思い出した。
その時はとんだ子供だましだと思ったけれど、どう考えてもボクより強くて、きっと権力者集団なんてひとひねりできちゃうような彼が言うと、なんだか本当じみてくる。
誰にも言ってないことまで知っているなら、ひた隠しにしてきた演奏者くんが好きという気持ちも知っているのだろうか。
ボクのそんな感情を知っている神さまはボクのことどう思ってるんだろうか。
…………聴いてみたいような、そんなことないような、そんな複雑な感情を胸に宿してしまった。
広場から花畑に行くまでの道は基本的に一本道で。花畑の奥にもまだ道が続いている。でも、そこに行こうとすると見えない壁か何かがあるのか、ぶつかってしまって行けない。
だから何か、世界として創造できなかった部分がそこには広がっているもんだと、僕は勝手に思い込んでいた。
でも、僕が不意に花畑に訪れたあの日、彼女がその奥に入っていくのが見えた。だから慌てて追いかけたのに、僕はそこから弾かれてしまった。
そして今、僕はその道の前にいる。こちらがわから通れないのは知っている。この道の先には、権力者がどうこうする何かがあるのだろう。それを突き止めることは僕にはできない。
だけど、少し前に権力者が入っていくのを見たのだ。追いかけて入ろうとしたけど入れはしなかった。でも、言い換えるなら、彼女がこんな道を通るってことは、必ずこの奥から戻って来るということが存在するのだ。だから、そこでこの先に何が広がっているのかが知りたかった。
もしかしたら洗脳して時がたった迷い子たちを何かの実験対象にしていたりとか、殺してしまっていたりとか、そういうことをしているかもしれない。
もちろん、彼女の家があるとか、彼女の趣味が詰まっているとかそういう可能性もあるし、別にそうならそうでいい。
ただ、この先に何があるのかが知りたい。その一心で僕は彼女を待ち続けることにした。
暑い、なんて感情を持った。
いつもは心地いい天気なのにこんな具合ということはどうやら演奏者くんは機嫌が悪いらしい。
彼が気分によって天候を変えることができると知ったのはつい最近だった。
急に空から水がドバドバ降ってきて、困り果てながら彼になんなんだろうと言ったら笑顔で『僕がやった』なんて言ってきたのだ。もはや悪魔であろう。
思い通りにならないことがあると天候をいじってしまうらしく『寂しい時は変えるから迎えに来てね』なんてことを言われた。めんどくさい野郎である。
まぁ、そんなわけでボクは彼を迎えに行かなきゃいけない。
ジリジリと焼き付くような日差しに嫌気がさしながらボクは彼を探すことにした。
たまに、本当にたまに疲れすぎて住人の住んでない家から外を眺めることがある。
住人がいるとこを選ばないのは、人形になって自由を失っている彼らの近くで、自由を持っているにも関わらずぼぉっとするのは申し訳ない気がするからだ。
窓の外を見てるのは普段生活している分には変化がないように見えるこの世界が、実は小さく風で木が揺れていたりだとか、そういう様子が見えるから。
今日も疲れてしまって、アパートの一室から外を眺めてると、演奏者くんが歩いてるさまが見えた。
彼はきょろきょろと辺りを見回していた。色々な場所を覗くような動作もしてるから、もしかしたら何か探してるのかもしれない。
演奏者くんが捜し物するなんて珍しいな、なんて重いながら窓越しに眺めていると、演奏者くんが顔をあげた為、バッチリ目が合ってしまった。
バレてしまった、なんていうまるでストーカーのような思考が浮かんだが、彼の方はボクの姿を確認したあと、満開の笑みで笑った。そして、足取り軽く去っていく。
…………もしかして、探していたのはボクのことか? なんて自惚れた考えが浮かんで頬が熱くなっていくのが分かった。
運命の赤い糸、なんて概念があって。
どうやら運命の相手と小指にある見えない赤い糸て結ばれてるらしい。
さて、僕にはその糸が見える。そして、権力者に結ばれてる赤い糸がどうも僕に繋がれてないように見える。
どうするか、などという考えは愚問で、彼女の赤い糸を特殊なハサミで切って僕の赤い糸と結びつけて、つなぎ目を丁寧に撫でると元から繋がっていたように見える。
本当は良くないかもしれないが、仕方ない。
僕は彼女の運命が欲しいから。