なめくじ

Open App
11/28/2024, 4:06:06 PM

気付かなかったの。
この気持ちが恋なんだって。
だって、こんなこと教わらなかった。

胸がドキドキするとか、
貴方が輝いて見えるとか、
貴方の事をずっと考えてしまうとか、
そんなものじゃなかったから、気付けなかった。

貴方の好きなところなんて答えられないし、
悪い所なんていくらでも言えてしまうけど。

夢に貴方が出てきた時に、
隣に貴方を求めてしまった時に、
わかってしまったの。貴方を好いていると。

貴方じゃなきゃ駄目な理由は出てこないけど、
それでも貴方がいいと思えたから。

これを恋と呼ばないのなら、私はきっと人を愛せない。



さりげなく貴方の手に触れる。
夢では感じなかった温もりが、ただ嬉しくて。

お願い。この時間を終わらせないで。
まだ、この恋心を冷ましたくないの。

11/6/2024, 6:11:05 PM

ついてない、そう思った。

大したことも無い、ごく普通の日常。
それでも少し、疲れていた。
今日の朝は少し余裕がなくて、
天気予報を見落としていたんだ。



何時も、折り畳み傘持ってたのにな。
今日に限って、忘れてしまったよ。
嫌な予感はしていたんだ。
黒く分厚い雲が近づいて来たから。

ぽつぽつと、肩に雨粒が落ちる。
静かに染み込んで、体を冷やした。

周りが傘を差していく。
言い知れぬ疎外感に、身を震わせた。

柔らかい雨が頭を、輪郭を撫でる。
それは母の手つきを彷彿とさせるもので。

最後に頭を撫でてもらったのは、いつだっただろうか。

嫌いなものを残さずに食べられた時。
母の手伝いをした時。
テストで良い点を取った時。

温かくて大きな手に、頭をこねくり回されたものだ。

そして今、日頃の苦労を労わって貰えたようで。
尚も体は寒さで震えているが、
胸の奥がじんわりと熱を孕んだ。

たまには、傘を忘れるのも悪くないかもな。
眩しく、暖かく、そして当たり前だった過去に耽った。

11/4/2024, 5:39:42 PM

哀愁を誘う君の横顔は、知らない人のようで。
思わず手を伸ばした。
肘を伸ばさずとも手が届く距離だというのに、
酷い焦燥感を覚えた。

冷えきった君の頬は、人間じゃないみたいで。
反射的に両手で挟んでしまった。
僕の手も冷たいから、温められやしないのに。
触れられることに安堵したんだ。

11/3/2024, 5:48:18 PM

お風呂の鏡を左手で拭った。
鏡の中の自分は曇った顔を浮かべていた。

お前の左手は自傷をするためにある。

湯船を赤色に染めた。



倒れた鏡を右手で立て直した。
鏡の中の左腕に罅が入っていた。

お前の右手は遺書を書くためにある。

白い便箋を黒く汚した。



錆のないカッターを取り出した。
刃に反射した光から声が聞こえた。

お前の左足の太い血管は血を噴き出すべきなのに。

太ももに付けた浅い引っ掻き傷を睨んでいた。



全身鏡の中には、縄に首を通した自分がいる。
鏡の中の自分は、満面の笑みを浮かべている。

お前の右足はもはや地を踏み出す気もないようだ。

静かに右足で足場を蹴った。

10/5/2024, 6:03:17 PM

私は彼が好きなのに。
私の隣に我が物顔で立つ君が憎たらしいよ。

彼に話しかけようとしても、君が悉く邪魔をする。
彼から話しかけてくれても、君が割り込んでくる。
狙っているのかと疑いたくなる程に間が悪いんだ。

「一緒に買い物に行かない?」
なんて照れている彼の誘いに笑顔で頷くと、
何処からともなく君が飛んでくる。
「俺も行く!」
なんてぬかして、平然と私の隣に並ぶんだ。

君には興味無いよ、とか。
彼と話したいから来ないで、とか。
私は彼が好きなんだ、とか。
そんなこと言えるだけの度胸が私にあれば、
こんなに悩んでいないし、君を嫌いにもなってない。

愛されてるね、なんて聞きたくない。
私は君に愛されたい訳じゃない。
好きでもない奴に愛されたって嬉しくない。
君じゃ駄目なんだよ。彼じゃなきゃ嫌なんだ。

星座を見に行こう。って、君に誘われたくなかった。
二人っきりで、なんて縛りまでご丁寧に付けられてた。
その約束は彼とがいいんだよ。君とだなんてお断りだ。
君と二人で夜を共にするなんて、想像したくもないよ。

君のことは眼中に無いんだよ。
喉の奥から捻り出したい言葉。
なんで出てくれないんだろうか。
傷付けるのが怖いのかな。
そんなに君の事を大事に思ってるのかな。

そんな馬鹿げた話があるものか。
君という存在が煩わしくて仕方がないけど、
そんな君も彼の友達の一人だから。
君を傷付けたら、きっと優しい彼も傷付くから。

いつだって君は私にとっての何者でもない。
私が君を突き飛ばさないのは彼のため。

でも私の隣は彼のために空けておきたいから。
お願いだから来ないで。話しかけてこないで。
彼を見つめる私の熱い視線に早く気付いて。
君を見る私の冷ややかな視線で悟ってくれ。
君の誘いには一度も乗ったことが無いんだけど。
何度君の誘いを断れば察してくれるんだろうか。
私は心底君を嫌っている。感付きもしないのか。

予定が合わないからと断り、君の視線から逃げ出した。
本当は彼のために空けていたんだけど。
君のせいで彼を誘えなくなったんだよ。
また少し、君に対する嫌悪感が増した。

一人虚しく、家の窓から夜空を見上げる。
星が一粒残らず分厚い雲に隠されていた。

Next