なめくじ

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私は彼が好きなのに。
私の隣に我が物顔で立つ君が憎たらしいよ。

彼に話しかけようとしても、君が悉く邪魔をする。
彼から話しかけてくれても、君が割り込んでくる。
狙っているのかと疑いたくなる程に間が悪いんだ。

「一緒に買い物に行かない?」
なんて照れている彼の誘いに笑顔で頷くと、
何処からともなく君が飛んでくる。
「俺も行く!」
なんてぬかして、平然と私の隣に並ぶんだ。

君には興味無いよ、とか。
彼と話したいから来ないで、とか。
私は彼が好きなんだ、とか。
そんなこと言えるだけの度胸が私にあれば、
こんなに悩んでいないし、君を嫌いにもなってない。

愛されてるね、なんて聞きたくない。
私は君に愛されたい訳じゃない。
好きでもない奴に愛されたって嬉しくない。
君じゃ駄目なんだよ。彼じゃなきゃ嫌なんだ。

星座を見に行こう。って、君に誘われたくなかった。
二人っきりで、なんて縛りまでご丁寧に付けられてた。
その約束は彼とがいいんだよ。君とだなんてお断りだ。
君と二人で夜を共にするなんて、想像したくもないよ。

君のことは眼中に無いんだよ。
喉の奥から捻り出したい言葉。
なんで出てくれないんだろうか。
傷付けるのが怖いのかな。
そんなに君の事を大事に思ってるのかな。

そんな馬鹿げた話があるものか。
君という存在が煩わしくて仕方がないけど、
そんな君も彼の友達の一人だから。
君を傷付けたら、きっと優しい彼も傷付くから。

いつだって君は私にとっての何者でもない。
私が君を突き飛ばさないのは彼のため。

でも私の隣は彼のために空けておきたいから。
お願いだから来ないで。話しかけてこないで。
彼を見つめる私の熱い視線に早く気付いて。
君を見る私の冷ややかな視線で悟ってくれ。
君の誘いには一度も乗ったことが無いんだけど。
何度君の誘いを断れば察してくれるんだろうか。
私は心底君を嫌っている。感付きもしないのか。

予定が合わないからと断り、君の視線から逃げ出した。
本当は彼のために空けていたんだけど。
君のせいで彼を誘えなくなったんだよ。
また少し、君に対する嫌悪感が増した。

一人虚しく、家の窓から夜空を見上げる。
星が一粒残らず分厚い雲に隠されていた。

10/5/2024, 6:03:17 PM