なめくじ

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9/7/2024, 1:09:18 PM

僕には、君が時々小さな小さな妖精の様に見える。
踊るように僕の周りを飛び跳ね、
歌うように僕の名前を呼び、
鱗粉を振り撒くように笑うんだ。

可愛らしくて仕方がない。
誰からも愛でられている、美しく可憐な少女。
そんな君の羽根をもげたなら、
どれほど満たされるのだろう。

その瞳に大きな大きな涙を浮かばせ、
僕の手の中でしか生きられなくなった君は、
どれほど愛おしいのだろう。

ああ、でも。
その晴れたような笑顔が見られなくなるのは、
まったくもって惜しいなあ。

8/27/2024, 6:01:47 PM

心配されたかった。
誰でもいいから、涙を拭って欲しかった。
頭を撫でて、寄り添って欲しかった。

私の不調で誰かの予定が狂ってしまった時、
私の看病を第一に優先してくれた時、
優越感と満足感に浸ってしまった。

あの日からだ。同情を愛だと錯覚したのは。

熱を出したかった。
顔が真っ赤になるくらいに。
風邪を引きたかった。
病院で診てもらうくらいの。
看病してもらいたかった。
大事にされてる確信を得られるように。

なんでもいいから病名が欲しかった。
心配してもらうための大義名分が欲しかった。

私の不調を見抜いてくれるような、
私の不調を憐れんでくれるような、
大事に思ってくれてる人を見つけたくて。

雨に佇む。
熱が出ますようにと、祈りながら。

8/26/2024, 2:18:56 PM

学校では人気者の優等生。
家では手のかからない愛娘。
愚痴ひとつ零さず、笑顔を絶やさない。
不気味な程に完璧な子供。それが私。

なわけがない。
そんな人間がいたら胃ごと吐いてしまう。
綺麗すぎて気持ちが悪い。

何時でもニコニコしやがって。表情筋がつりそうだ。
思ってもいないことを言う時だけはやけに舌が回る。
先生にいい顔をするのは進学を有利にするため。
推薦枠を貰えた理由の一つがこれだろう。
同級生と仲良くするのはただ都合がいいから。
抜き打ちテストの噂なんて、どこから得ているのか。
親の言う事を聞くのは詮索されるのを防ぐため。
あの子なら大丈夫って、馬鹿みたいに信じきってる。

絆なんて、打算と下心を混ぜ込んだ鎖だ。

愚痴だって、言わないだけ。
心の中では罵詈雑言が飛び交っている。
毎回歯を食いしばって暴言を飲み込んでいる。
目を細めて見下してるのを悟られないようにしている。
嘲笑が漏れないよう息を止めている。
お陰様でストレスは絶えないが、
周りからの評価は高いみたいだ。

毎日私を隠して、騙して生きている。
味方なんて居ない。晒け出してはいけない。
それでも私をこの世界に残したくて。
私が存在していることを証明したくて。

とうとう私は、日記帳という名の掃き溜めを作った。

言いたかった愚痴も、失望した誰かの行動も、
ついでに分からなかった問題も。
ここには取り繕う事無く、赤裸々に書き出す。
笑いたかった誰かの失態も、
恥ずかしかった自分の失敗も。
思い出して顔に熱を集めては、書く手が早まる。

誰にも言えないような、見せられないような日常が。
今まで隠していた、私の本性が。
お世辞にも綺麗とは言えない字体で踊り狂っている。

今日もまた少し、私の日記帳が黒くなった。

8/16/2024, 5:39:47 PM

僕は誰かの一番になりたかった。
僕は一番なんだと誇りたかった。
勿論好意的なものであって欲しかったけれど、
誰も僕を一番にはしてくれなかった。
どんな理由でも、ね。

もう選り好みはしないって誓ったんだ。
一番になれるなら、どんな事だっていいよ。
一番不細工だとか、一番空気が読めないとか、
それでもいいんだ。誰かの唯一になれるなら。



やっぱり一番にはなれなかった。してくれなかった。
何をするにも中途半端な僕は、一番になれなかった。

もう誰かに期待をするのはやめた。
誰かじゃなくて、僕にしよう。
僕の一番に、僕がなればいい。

大切な物を壊して、大事な人を傷付けた。
一番になるために、僕は躊躇わなかった。



鏡を見る。僕の全てを壊した奴の顔が映っている。

今僕はとても誇らしいよ。
この瞬間、僕は一番になったんだ。

唯一無二で、僕だけの一番。
この世で一番、僕自身が大嫌いだ。



おかしいな。これが僕の誇らしさ?
全然嬉しくないや。

8/15/2024, 5:17:20 PM

今日は、特段綺麗な形の月じゃなかった。
満月でも三日月でもない。中途半端で歪な月。
それでも何故か、目が離せなくて。
夜の海に浮かぶ孤独な月を、抱き締めたくなった。

誰もいない浜辺をゆっくりと歩いてみる。
夏とはいえ、夜の海辺は肌寒かった。
街の喧騒も、煌めきも、ここには何も無い。
あるのは打ち寄せる波の音と、月明かりだけ。
ひとりぼっちの海は、ただただ広かった。

足先を海に浸した。冷たい。
一歩、もう一歩。
揺らめく月に誘われて、身体は冷たく重くなっていく。
感覚が鈍くなってきた。でも不思議と怖くはなかった。

別に死のうと思って来たんじゃない。
ただ、月を眺めていた。それだけだったのに。
口に海水が入る。塩辛い。
涙と同じ味がした。

気が付けば泣いていた。
大声で泣きじゃくった。
誰もいない海の中で、気の済むまで泣き叫んだ。
理由なんてない。なのに、涙は止まらなかった。

泣き止まないまま、月明かりを求めて手を伸ばす。
届いた光をそっと抱き寄せた。微かに暖かかった。

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