スランプななめくじ

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今日は、特段綺麗な形の月じゃなかった。
満月でも三日月でもない。中途半端で歪な月。
それでも何故か、目が離せなくて。
夜の海に浮かぶ孤独な月を、抱き締めたくなった。

誰もいない浜辺をゆっくりと歩いてみる。
夏とはいえ、夜の海辺は肌寒かった。
街の喧騒も、煌めきも、ここには何も無い。
あるのは打ち寄せる波の音と、月明かりだけ。
ひとりぼっちの海は、ただただ広かった。

足先を海に浸した。冷たい。
一歩、もう一歩。
揺らめく月に誘われて、身体は冷たく重くなっていく。
感覚が鈍くなってきた。でも不思議と怖くはなかった。

別に死のうと思って来たんじゃない。
ただ、月を眺めていた。それだけだったのに。
口に海水が入る。塩辛い。
涙と同じ味がした。

気が付けば泣いていた。
大声で泣きじゃくった。
誰もいない海の中で、気の済むまで泣き叫んだ。
理由なんてない。なのに、涙は止まらなかった。

泣き止まないまま、月明かりを求めて手を伸ばす。
届いた光をそっと抱き寄せた。微かに暖かかった。

8/15/2024, 5:17:20 PM