上手くいかなくたっていい。
その一言で、きっと私は救われたのに。
貴方の口から出てくる言葉は、
いつも私を責めて、貶して、嘲笑っている。
こんなことも出来ないのかと、蔑んでいる。
私に完璧を強要し、勝手に期待して、
結果に落胆し、出来損ないだと罵る。
この世の不条理を煮詰めたような言葉で、
いつだって私を傷付けるのだ。
私の心を引き裂く貴方から、一刻も早く離れたいのに。
不意に発せられる私への賞賛が、
思わず涙ぐむほどに嬉しくて。
貴方の言葉は、私を苦しめながらも、縛り付けている。
貴方は本当にずるい人だ。
どうせ、全てわかってやっているのでしょう?
つまらないことでも、笑って聞いていて欲しい。
くだらないことでも、隣で楽しんでいて欲しい。
抱き締めて欲しいとか、慰めて欲しいとか、
恋人でもない君に望むのはおかしな事かな。
私は君のことが好きなのかな。
人肌恋しい時に君の顔が思い浮かぶのは、
つい君のことを目で追ってしまうのは、
君が隣に居てくれると落ち着くのは、
私が君のことを好きだから、なのかな。
恋って、こんなに淡白で冷たいものだったのか。
誰でもいい訳じゃないけど、君じゃなくても良いんだ。
純粋な愛情じゃない。邪な思惑で穢れている。
あわよくば、なんて言葉で詰まっている。
今だって君と手を繋ぎたいし、その胴に腕を回したい。
その頬に口付けたいし、今すぐ押し倒してしまいたい。
間違っても恋や愛と一緒くたにしていい感情では無い。
言い切ってしまおうか。
君は私にとって都合のいい人間だったんだ。
強気に出れば丸め込めそうで。
一線を超えても後腐れがなさそうで。
いざとなったらすぐにでも縁を切れそうで。
最低な思考だということは自認している。
それでも、君といる時が一番楽しくて。
私を晒け出せるのは、君の前だけだったから。
純愛とは程遠いけれど、呆れるほどに欲深いけれど、
私なりに君を好いているんだ。きっとね。
君の目が伏せられた瞬間、
止められなかった思いが溢れた。
今日はいつもに増して辛かったんだ。
思い通りにいかなかった。許せないことがあった。
慰めて欲しかった。僕は悪くないと認めて欲しかった。
こんな僕の浅ましさを、君には知られたくなかった。
きっと君は優しく頭を撫でてくれるだろう。
柔く微笑んで僕を受け入れてくれるだろう。
知っているよ。誰よりも知っている。
そんな君だから、好きになれたんだ。
そんな君だから、知られたくないんだ。
君の目が覚めるまでには、いつもの僕に戻るから。
どうにか立ち直るから。この汚い涙痕を隠すから。
どうかその瞳に、こんな無様な姿を映さないで欲しい。
どうか今だけは、君の寝顔に縋ることを許して欲しい。
君は心の強い人間だね。
初めて君という存在を認知した時、そう思ったよ。
どんな人間にも、何度だって手を差し伸べる。
助けを必要としている者を決して見逃さない。
誰かを救うためには自己犠牲をも惜しまない。
誰にも真似出来ない強さが、君にはあった。
そして君は、僕にもその手を伸ばした。
現状に絶望していた僕に君は笑顔を向けたんだ。
屈託のない笑み。飾らない綺麗事。
全てが眩しくて、暖かかった。
きっと僕でなければ、泣き崩れ感謝しただろう。
君という人間を、神か仏かと錯覚したかもしれない。
僕でなければ、心が穢れている僕でなければ、
君のその強い心に憎しみなど覚えなかったはずだ。
君の眩さに目を焼かれ、君の温もりに心を抉られた。
君の善意を、悪意と憎悪で返してしまった。
それでも君は、嬉しそうに受け取ったんだ。
それがまるで光り輝く宝石のように。
大事に大事に、何よりも大切だと言わんばかりに。
君は、たとえ嵐が来ようとも、
逃げも隠れもせずに立ち向かうのだろう。
その暴風雨を一身に受け止めるのだろう。
誰も傷付かないよう、自らを犠牲にして。
慈愛の笑みを、自然の脅威に向けながら。
そんな姿を見た全ての者は救われるのだ。
ただ一人、君から目を背けた僕を除いて。
浮かない顔で微笑む君に、僕の手を伸ばした。
君は何時でも彼の顔を覗いている。
自分と合わない目線に傷付き、
彼の口から発される知らない女の名前に嫉妬する。
実に生きづらそうで、可哀想。
そんな君が、本当に可愛くて。
君の視界に僕が居ないことは分かっていた。
君が僕を彼と重ねて見ていたことも。
それでもいいんだ。それでいいんだ。
君の横に居られるなら、それでいい。
彼を好いている限りは、それでいい。
疲れた時には頭を撫でて慰めてあげるから。
辛い時は思いっきり抱き締めてあげるから。
僕を彼だと思って接していたっていいから。
友愛を超えるまでは、何をしてもいいから。
僕をなんとも思っていない、
彼を愛している君が好きだ。
僕達の関係性は友情でいい。
それ以上は望んでないから。