「終わりにしよう。」
その一言で私と貴方の関係が消え去った。
この瞬間に私と貴方は赤の他人となった。
そんな恐ろしい話はないでしょう。
私は認めない。認めてたまるもんですか。
貴方との、辛く幸せで長く短かったあの日々が、
過去のものにされるなんて許せなかった。
終わらせましょう。
何時までも貴方を想い続けることを。
貴方と共に居られないこの人生を。
もちろん、貴方を連れて。
僕の手を取りなよ。
君の自傷を愛してあげられるのも、
君の暴行を許してあげられるのも、
僕だけなんだ。早く気づいて。
君には僕しかいないんだよ。
僕は君が居ないと生きていけないんだ。
君だって、僕が居ないとダメだろう?
だって僕がそうしたんだから。
手を取り合って、絡め合って、縛り付ける。
傷を作り、傷付けられ、謝っては繰り返す。
そんな関係が、僕達にはお似合いなんだよ。
僕達は、依存し合っているんだ。
口下手な君は伝わらない恐怖心から拳で愛を伝える。
不安症な君は自傷によって自身の辛さを可視化する。
僕はそんな君の暴力を愛情だと盲信して受け止める。
そんな君の不器用さに庇護欲と独占欲を掻き立てる。
そうやって生きてきたんだ。そしてこれからも。
責任を取ってくれよ。
君の所為で殴られるのが、蹴られるのが、
どうしようもなく嬉しくなってしまった。
痛ければ痛いほど愛おしくてたまらない。
君の自傷跡だってそうだ。
痛々しい程に興奮してしまう。
気味が悪いだろう?君が悪いんだよ。
君が僕を歪ませたんだ。
君じゃないと許せないように。
君じゃないと愛せないように。
君がいないと生きていけないように。
なんだ、満更でもなさそうだね。
傷だらけな君も、血塗れな僕も。
君の赤く染まった頬が、熱を孕んだその視線が、
君からの必死な愛の告白が、僕を酷く悲しませたんだ。
これまでずっと、愛してきたのに。
ずっと君に手を伸ばし続けていたのに。
そんな健気な僕に、こんな仕打ちをするなんて。
あんまりだ。あんまりだよ。
なんで僕を好きになってしまったんだい。
僕は君が好きだったんだ。
僕を愛すことの無い君が。
僕のものにならない君が。
君が僕を好きにならない限り、
僕は全力で君を愛すことが出来たのに。
君が僕に捕まらない限り、
僕は君を追い求めることが出来たのに。
どうして僕の手を取るんだ。
やめてよ。振り払っておくれよ。
まだ僕は君を愛していたいんだ。
思い切り睨み付けて、力の限り突き飛ばしてくれよ。
君からの愛情が、僕にとっては毒なんだ。
君に愛されたくて愛していた訳じゃないのに。
謝るから、どうか僕を好かないで。
こんな僕に失望してくれよ。
心底軽蔑して、僕を嫌ってくれ。
そしたらまた、君を愛せるから。
疑問に思うことなく、日々を謳歌する。
友人と何気ない会話をして、
最後はみんな言うんだ。
「また明日。」って。
それが普通だったから。当然だったから。
明日があることは不変の事実で、
私達が生きていることは至極真っ当な事だと。
私は、私達は、信じて疑わなかった。
君からのおはようが聞けなかった。
大好きな君の笑顔が見れなかった。
君の明日が来なかった。
私の当たり前が壊れた。
音も立てずに、別れの言葉も無く。
私の隣に君が居る、小さな幸福が。
昼とはまた違った賑わいを見せる夜の街。
偶然にも君と出逢い、酒を飲み交わした。
最後の別れから、何年経っただろうか。
僕たちの会話は、昔と変わりなかった。
思い出話に花を咲かせ、酒を呷る。
君が話す今の君は、僕が知っている君よりも、
ずっと立派な大人になっていた。
つい浮かんだ悪態は、肴と共に腹に流し込んだ。
気分の良い君に、流されるままに奢られる。
少し強い風が火照った身体を冷ましていく。
心地よい居心地の悪さが胃を重たくさせた。
街の灯りが君の頬を赤く照らす。
過去の面影が残っている君の横顔は、
何故だか知らない人のように見えた。