俯いてしまうほど辛いことがあった日は、
夜が明けるまで走るんだ。
足が痛くなっても、肺がちぎれそうになっても、
朝日が目を刺すまで止まらない。
頬を伝う雫が、汗と混ざって落ちてゆく。
流して流して泣き叫んで、心ゆくまで走り続ける。
頬が乾き切った時、私はきっと前を向けているから。
がむしゃらに駆け抜けた先に、私の明日が待っている。
君は私に別れを告げた。
贅沢させてやれる金もない。
二人で広々と住める家もない。
共に居れる時間も余裕もない。
お前を幸せにはできないと、私の手を離したんだ。
君は何も分かっていないらしい。
私は君にケーキを買うようなお金が無いことも、
二人で住むには窮屈な家だということも、
共に思い出を作ることが難しいことも、
全てわかっていたよ。
それでも君を選んだんだよ。
ケーキよりも君のただいまが何より嬉しい。
窮屈ならばもっと寄り添えばいい。
どこかへ出掛けなくとも、
君と手を握れていればそれでいいんだ。
何もいらないの。君だけでよかったんだよ。
青と赤が入り交じり、やがて黒くなる夕空。
肌寒い風が吹き出す時間。
真っ赤な太陽に目を焼かれた時、
遠くの空へ旅立った君を思い出す。
君との別れも、こんな赤い夕焼けが照らしていた。
赤く染まった君の横顔は、泣きそうな表情だった。
励まし見送った君の背中は、暗闇に溶けていった。
元気にしているだろうか。
今でも私は、君を応援しているよ。
どんな道を歩んでも、どんなに離れた場所にいても、
私は君を忘れない。
夕日に君の面影が残っているから。
すすり泣く音。若々しい歌声。堂々とした宣言。
僕達は今日、卒業するのだ。
堅苦しい先生の挨拶。
風に吹かれてやってくる桜の花びらが足元を彩る。
別れと成長の証を受け取った友は、
僕の知らない顔をしていた。
桜の木の下で、最後の集合写真を撮る。
ふざける者も、涙目な者も、みな笑顔だった。
今までお世話になった先生も、
こんな時にまでそんな先生に叱られている彼も、
どこか嬉しそうで、悲しんでいた。
校長先生の長い話は、何故か苦だと思わなくて。
友達といつものように話そうとしても、
声より先に涙が出てきてしまった。
そんな僕をひとしきり笑った後、
一緒に泣いてくれたいつも通りの君に、酷く安心した。
別れは寂しくて、きっと好きにはなれないけど。
変わらない絆とこの先の出会いに思いを馳せて。
春爛漫な世界に、僕達は旅立つ。
嘘を吐いたと、君が罵られていた。
誰も傷つかないような、些細な嘘。
それなのに君は、謝罪を口にする。
嘘が全部悪いものだなんて、誰が決めたの。
正直な事が良い事だなんて、誰が言ったの。
素直な言葉ほど鋭利になるって知らないの。
人を幸せにできる嘘があるって知らないの。
君は誰よりも、ずっと優しかった。
私は誰よりも、それを知っている。
君の幸せな嘘に、救われたから。