青と赤が入り交じり、やがて黒くなる夕空。
肌寒い風が吹き出す時間。
真っ赤な太陽に目を焼かれた時、
遠くの空へ旅立った君を思い出す。
君との別れも、こんな赤い夕焼けが照らしていた。
赤く染まった君の横顔は、泣きそうな表情だった。
励まし見送った君の背中は、暗闇に溶けていった。
元気にしているだろうか。
今でも私は、君を応援しているよ。
どんな道を歩んでも、どんなに離れた場所にいても、
私は君を忘れない。
夕日に君の面影が残っているから。
すすり泣く音。若々しい歌声。堂々とした宣言。
僕達は今日、卒業するのだ。
堅苦しい先生の挨拶。
風に吹かれてやってくる桜の花びらが足元を彩る。
別れと成長の証を受け取った友は、
僕の知らない顔をしていた。
桜の木の下で、最後の集合写真を撮る。
ふざける者も、涙目な者も、みな笑顔だった。
今までお世話になった先生も、
こんな時にまでそんな先生に叱られている彼も、
どこか嬉しそうで、悲しんでいた。
校長先生の長い話は、何故か苦だと思わなくて。
友達といつものように話そうとしても、
声より先に涙が出てきてしまった。
そんな僕をひとしきり笑った後、
一緒に泣いてくれたいつも通りの君に、酷く安心した。
別れは寂しくて、きっと好きにはなれないけど。
変わらない絆とこの先の出会いに思いを馳せて。
春爛漫な世界に、僕達は旅立つ。
嘘を吐いたと、君が罵られていた。
誰も傷つかないような、些細な嘘。
それなのに君は、謝罪を口にする。
嘘が全部悪いものだなんて、誰が決めたの。
正直な事が良い事だなんて、誰が言ったの。
素直な言葉ほど鋭利になるって知らないの。
人を幸せにできる嘘があるって知らないの。
君は誰よりも、ずっと優しかった。
私は誰よりも、それを知っている。
君の幸せな嘘に、救われたから。
君の目を見つめると、何故か君は逃げ出そうとする。
落ち着きのない表情で、私の視線から離れていく。
そんなところが愛らしくて、同時に少し悲しくて。
君は知らないのだろう。
私が何度君に助けられたことか。
君は無自覚だから、助けたという認識もないのだろう。
それでも確かに救われたのだ。
君の暖かく柔らかい視線に。
誰かに見られているというのは、
必ずしも気持ちの悪いものではなく。
誰かに見守られていると言うだけで、
人の心は何故か強くなれる。
君の視線は、私を酷く安心させるものだった。
君に覚えがないのだとしても、私は決して忘れない。
君の視線を、君の優しさを。
そして、私は君にそれを返そう。
私を助けてくれたように、君を救いたいから。
私の熱い視線を、存分に受けとってくれ。
付き合って6年。初めての高級レストラン。
どこか覚悟したようなあなたの目。
私はプロポーズされるのだろうと悟った。
料理も終盤。
あなたが席を立ち、私の横で片膝をつく。
柄にもなく様になっているその姿。
緊張がこっちにまで伝わってくる表情。
堅苦しい口調と、指輪を差し出し震える腕。
「この世の誰よりも幸せにする。」
キザな台詞を言うものだと、思わず笑ってしまった。
だけどそれ以上に、信じられないくらい嬉しかった。
幸せにするだなんて、大層なことを口にしないで。
あなたはただ、私の手を離さなければいいのよ。
そう言い指輪を嵌めると、
あなたは嬉しそうに微笑み頷いた。
一目惚れしたあなたの笑顔と重なった。