1/11/2026, 4:57:04 PM
夜半の廊下は底冷えがするほど静かだ。
自室へ戻ろうと歩き出したのはいいが、
足袋越しに伝わる床板の冷たさに思わず肩をすくめる。
「身体を冷やすのは良くないよ」
背後で衣擦れの音がして振り返るよりも先に影が落ちる。
そっと私の肩にかけられた外套から微かな体温が伝わってくる。
言葉は少なく、私達の距離は決して触れ合うほどでもない。
けれど、彼が例え人でなくとも、そのぬくもりは確かなものだった。
【寒さが身に染みて】
1/10/2026, 2:49:18 PM
「兄さん、私二十歳になったよ」
帰省してきたばかりの彼の部屋に突撃すると、私はふふんと誇らしげに胸を張ってみせた。
やっと大人になったはずなのに、不安も期待も、何もかもがまだ手探りで――心が落ち着かない。
そのことを悟られないように、わざと明るく振る舞う。
「おめでとう。これでお前も、選ぶ自由が増えたな」
彼はそう言って笑い、いつものように私の頭をわしゃわしゃとかき混ぜる。
その右手のぬくもりに、胸の奥が少しだけざわめいた。
強くなることも、迷うことも、全部許された年齢。
これは始まり――
私たちの関係も、ここから静かに、でも確かに深くなっていくのだと、期待を胸に。
【20歳】
1/10/2026, 4:21:29 AM
静かな執務室で、彼は襖越しに月を見上げる。
「欠けてるのに、どうしてこんなに眩しいんだろうね」
その横顔に私は胸の奥を照らされる。
完全じゃないからこそ、惹かれる。
触れれば壊れそうな距離で、想いだけが満ちていく。
三日月はまだ途中――
それでも今夜、確かに恋を照らしていた。
【三日月】