ドカ強欲なので
ふつーに1000年くらい生きたい
夢だと、すぐに分かった。
けれど妙に現実味があった。
気がつくと私は本丸の玄関口に立っていた。
見覚えのあるはずの場所はひどく寂れていて、割れた壁から蔦が覗き、庭は草に埋もれている。
それでも誰かがここで暮らしていた痕跡が、微かに息づいていた。
私は理由もなく、これが未来の私の本丸の姿なのだと、自然と理解していた。
静まり返った空間に、奥からひとつの足音が響いてきた。
驚きはなかった。ただ、その方向を見つめ、音の主を待った。
暗闇から現れた彼は私の姿を見るなり目を見開いた。
「……あ、るじ?」
その掠れた声が、言葉を探すように震えていた。
私は苦笑して、そっと手を振った。
彼の話によれば、私は既に亡くなっていた。老衰だったらしい。
それと同時に、ここにいたかつての仲間たちの半分が役目を終えて消えていったという。
日が経つにつれ、残っていたものも次々と数を減らし、今では彼ひとりだけになったそうだ。
「俺が一人になって、十五年くらいかな」
淡々と語る彼の声色は、どこか擦り切れていた。
なぜ一気に解かれなかったのか、かつて仲間たちで考えた末「強く愛された存在ほど、長く留まるのではないか」という結論に至ったらしい。
その言葉に、胸が締めつけられた。平等に接してきたつもりだった。それでも、確かに偏りはあったのだろう。
――私の想いが、彼を縛りつけてしまった。
それでも彼は言った。
「確かに一人は寂しいけど。でも……嬉しかったよ」
笑ったつもりだろうその表情は、ひどく痛々しかった。
それから彼は本丸の案内をしてくれた。今は必要最低限の場所しか使っていないという。
二人で料理し、言葉を交わし、私は彼がどれほど素晴らしい存在なのかを語り、やがて眠気に抗えなくなり、並んで横になった。
翌朝、彼は静かに願い出た。
――自分を終わらせてほしい、と。
生まれたのも、終わるのも、あなたの手であってほしいのだと。
彼は桜の花びらのような光となって消えた。
私はその場に崩れ、涙が止まらなかった。
ふと、彼がいた場所にひとつの封筒が落ちていることに気がついた。
「主へ」と書かれたそれには、三枚の手紙が入っていた。感謝の言葉が、丁寧な文字で綴られている。
三枚目は、たった三行。
私の名前と、彼の名前
「愛してる」
その短い言葉に込められた彼からの思いや、感情、全てが伝わってきて。
私はその手紙を抱きしめ、泣き叫んだ。
必死に押し殺していた声は、もう堰き止められなかった。
少しだけ、悲しい旅路を描いただけ。
けれどその果てで、私は選び、見送り、受け取った。
きっと――もう大丈夫だ。
これでようやく、皆が同じ終着点へとたどり着けるのだから。
【旅路の果てに】
夜半の廊下は底冷えがするほど静かだ。
自室へ戻ろうと歩き出したのはいいが、
足袋越しに伝わる床板の冷たさに思わず肩をすくめる。
「身体を冷やすのは良くないよ」
背後で衣擦れの音がして振り返るよりも先に影が落ちる。
そっと私の肩にかけられた外套から微かな体温が伝わってくる。
言葉は少なく、私達の距離は決して触れ合うほどでもない。
けれど、彼が例え人でなくとも、そのぬくもりは確かなものだった。
【寒さが身に染みて】
「兄さん、私二十歳になったよ」
帰省してきたばかりの彼の部屋に突撃すると、私はふふんと誇らしげに胸を張ってみせた。
やっと大人になったはずなのに、不安も期待も、何もかもがまだ手探りで――心が落ち着かない。
そのことを悟られないように、わざと明るく振る舞う。
「おめでとう。これでお前も、選ぶ自由が増えたな」
彼はそう言って笑い、いつものように私の頭をわしゃわしゃとかき混ぜる。
その右手のぬくもりに、胸の奥が少しだけざわめいた。
強くなることも、迷うことも、全部許された年齢。
これは始まり――
私たちの関係も、ここから静かに、でも確かに深くなっていくのだと、期待を胸に。
【20歳】
静かな執務室で、彼は襖越しに月を見上げる。
「欠けてるのに、どうしてこんなに眩しいんだろうね」
その横顔に私は胸の奥を照らされる。
完全じゃないからこそ、惹かれる。
触れれば壊れそうな距離で、想いだけが満ちていく。
三日月はまだ途中――
それでも今夜、確かに恋を照らしていた。
【三日月】