川と田んぼしかない私の町にも、毎年夏のお祭りはあった。
普段は閑散とした町並みもこの日ばかりは人だかりで賑わっていて、みんな今までどこにいたんだと驚いてしまう。
けれどそれは私がまだ小さな子どもだった頃の話で、だんだんと体が大きくなるにつれて、町の祭りが小さく子どもじみたものに感じるようになっていった。
高校生になったある日、私は同級生から祭りの誘いを受ける
そいつとは小学からの同級生で昔はよく遊んでいたのだが、中学に上がってからは全くと言っていいほど疎遠で、顔を合わせればお互いに手を挙げるくらいの仲だった。
祭りに誘ってくれたのは素直に嬉しかったが、なんだかそいつと祭りに行くのが面倒に感じてしまい、ずるずると返事を伸ばして結局最後には断ってしまった。
これは後から知った話なのだが、実は私と一緒に祭りに行きたかったのはそいつではなく、どうやら私と同じクラスの女の子だったみたいで、その子と部活が一緒だったそいつが仲介役として私を誘ったつもりだったらしい。
結局、私が祭りに来ないので仕方なく二人で祭りに行き、なんとそこで二人は付き合ったそうだ。
私がそれを知ったのは二人が付き合った祭りのあとのことで、
まさに、あとの祭りである。
神様が舞い降りてきて、こう言った。
『お前のカミ(髪)をよこしなさい。カミ(神)だけに…なんつって』
そして神様は私の髪を毛根ごとむしり取ると、天上の世界へ去っていった。
残ったのは大いなる存在の威厳を守り抜いたという事実と、光輝く私の美しい満月。
あの日から、私は神に選ばれし覇月(ハゲ)となった。
だから次の言葉は、よく考えてから口にすることだ。
誰かのためになるならば、
そう思ってコンビニのレジにある募金箱に五千円を入れてみた
このお金は、私が汗を流して稼いだものだ。
よくよく考えてみると、企業で働く私は社会の歯車の一つとして、いつも誰かの役に立っているはず。
そうやって稼いだお金を、また誰かのために使う。
私はなんて出来た人間なんだろうと、誇らしさを胸にコンビニを後にした。
「すいませーん‼︎」
店を出てすぐに、若い女性の店員が追いかけてきた。
この子はさっき私の会計を済ませてくれた子だ。慌しく走る彼女の右手には五千円札が握られていた。
さらさらと舞う彼女のポニーテールから、ふんわりと甘い香水のような香りが漂った。
「ウチの店、募金したお金は全部店長の懐に入っちゃうんです。せっかく募金しようとしてくれたのに、申し訳ないのでお返しします」
しかし、差し出された五千円札に私は優しく首を振る。
「なら、そのお金はお嬢さんが受け取ってください」
戸惑う女の子を背に、私はクールに立ち去るのだ。
未来ある若者の真摯な振る舞いに、募金した五千円と私の心は見事に救われてしまった。
ならばその救い手である彼女に五千円が与えられるのは、当然の対価である。
断じていうが、決して下心などではない。
鳥かごの中にいる、幸せの青い鳥。
たくさんの人たちが青い鳥へと集まって、
気づけばかごの中には大きな世界ができていた。
童話の青い鳥では、チルチルとミチルが思い出の国から青い鳥を連れて帰ろうとするのだが、
思い出の国を出た途端、青い鳥は黒い鳥に姿を変えてしまう。
あの世界の青い鳥も、黒い鳥に変わってしまった。
幸せとは長続きしないものなのだろうか。
今日も何かが起きている。
諦めて、次の青い鳥を探すとでもしよう。
学校へ向かう途中、今日は特に気分が乗らなかったので、朝礼だけサボろうと自転車を止めた。
土手を走っていたので、茂みに座ってしばらく時間を潰そうと思い、
ぼんやり川向こうの道路を眺めていると、通りすがりの男に突然話しかけられた。
「友情なんてものはあくまで情の一種であり、情とは一個人の主観的な感情でしかない」
「愛情や同情が永遠に続かないように、友情もいずれ薄れ消えていくものだ」
「情が絶えるのを恐れるのであれば、自らもまた情の種を撒き続けなければならないよ」
男はぽんと俺の肩を叩くと、どこかえ消えてしまった。
あの男は一体何だったのだろうか。