今1番欲しいもの、
とりあえず紙にリストを書いてみると、
ほとんど金で何とかなりそうだった。
お金ってすごい。
人生の歩む道を見失った時、私は私の名前を思い出す。
すると荒ぶる羅針の針はピタリと止まり、私に一点の道を示してくれる。
両親が私の為に一生懸命考えてくれた、私だけの宝物。
私にとって名前とは、
タトューのように私の中に刻み込まれていて、
呪文のように唱えると生きる力と勇気をくれる。
だけど、私の呪文はちょっぴり刺激が強いみたいで、
人前で唱えると、みんな凍り付いてしまうんだ。
視線の先には、魔法の板があった。
これを使っている間、俺は異界で英雄になるのだ。
無意識のうちに板へと手が伸びていた。
しかし、忘れてはいけない。
この板には副作用がある。
異界で感じる高越感は、脳内で麻薬のように作用し、平坦な現実とのギャップに苦しむことになる。
『今日は、やめておこう』
そう心の中で念じた俺は、ベッドに転がりスマホの画面をつつくのであった。
遠い日の記憶______。
2人の看守に引っ張られ、1人の老男が狭い通路を歩いていた。
しばらく進むと、小さな檻が幾つか並んだ部屋に辿り着く。
老男はほんのり抵抗を試みたものの、若い看守2人に敵うはずもなく、あっという間に檻の中に閉じ込められてしまった。
檻の向こうで、酷くこちらを睨みつける看守たちと目があう。
老男は誰にも聞こえぬほど小さく息を吐くと、看守に背を向け、痛めた右足を庇いながら、ゆっくり腰を下ろして正座を取った。
これで文句は無いだろうと看守を一瞥すると、やがて看守達はどこかへ行ってしまった。
さて、今日から三十日間、長い懲罰が始まる。
懲罰の間は、就寝と食事以外、朝から晩までひたすら壁を向き正座をしなければならない。
考えるだけで、退屈で気が狂ってしまいそうになる。
幸いにも老男には今まで生きてきた六十数年の人生があった。
思い出せる限り遠い日の記憶から、ゆっくりと振り返っていくとしよう。
『これで、終わりにしよう』
心の中で呟きながら、一本のタバコを口に咥えた。
カチ、カチッ。
ライターの火を灯し、ゆっくりと咥えた先へと運んでいく。