書き出し

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8/17/2024, 3:57:13 PM

「そんなこと言ってたらいつまでも捨てられないもの」
そう言ってお母さんは写真をゴミ袋の中に置いた。
捨てたのではなく置いたように見えたのが、唯一お母さんを人間だと思える事象だった。
捨てられた写真には僕と、お母さんと、お父さんが居た。
お父さんが死んで10年、写真を捨ててお母さんは
「やっと前に進める」と言った。
やはり人間ではなかったと思った。
お母さんなら、お父さんの写真はずっと飾っておくものではないのか。前に進むためとはいえ、写真を全て捨てるのは冷たすぎやしないかと言いたかった。言わなかった。
ここで何も言わない冷たさはお母さんに似たのだろうか。
これからもお母さんの中にお父さんはいるのだろうか。
そんなことを考えながら僕はテレビをつけた。

8/10/2024, 6:12:54 PM

終点でバスを降りた。
昼ごはんを食べ、民宿へ入る。
夜、僕はそこで好きな人の、"好きな人"だった人の、首を絞めた。
きつく。ぐっと力を入れた。
僕は許せなかった。楽しい思い出が、苦しい気持ちに変わっていくのが許せなかった。
2週間前、僕は君から知らない男と寝た話を聞かされた。
結局、君も"そういう人"だったのだ。
一緒に行ったライブも北海道旅行も、よく行ったコンビニも、全ての楽しい思い出が自分の中で苦しいものに変わっていくのが分かった。
だから僕の片想いは僕が終わらせた。

8/3/2024, 4:01:47 PM

目が覚めるまでに君は料理を作って掃除をして洗濯機を回す。
僕の目が覚めたあと、君は眠る。
君の目が覚めるまでに僕は洗濯物を干してゴミを捨てて君と食べるためのごはんを作る。
僕はずっと君の寝顔しか見れないし、君もずっと僕の寝顔を見ている。

7/26/2024, 6:50:51 AM

「鳥かご見ましたか?」
「え?とり?」
「鳥かご、見ましたか?」
「ああ、映画、。見ました。」
「泣いてましたね。」
「泣いてました。ていうか、見てたんですね。」
「はい、見てました。映画を見てるあなたを見てました。映画は見てません。」
「なんでですか」
「素敵な映画を見て、涙を流せるって、素敵なことですよね。」
「そうですかね」
「そうですよ。だって、その人が真っ直ぐに、幸せに、純粋に?育ってきたことがわかるっていうか、証拠じゃないですけど。」
「君は涙を流せる人ですか?素敵な人ですか?」
「どうでしょう。でも素敵だと思いますよ。」

7/22/2024, 4:57:39 PM

夜、日焼けしたカセットをカチャッとはめる。
あの頃、なるべく音を出さないようにと深夜の布団の中でゆっくり開いていた画面を、今はバキバキバキと豪快に開く。
こんな年齢になってもまだあの頃に戻りたくなる。
肴のスルメを噛みながらゲームの立ち上がりを待つ。
Aボタンでゲームを始めればぼくはあの頃に戻れる。
先輩に媚びることも、飲みの場を盛り上げることも、恋愛の上手な駆け引きも、大人らしいことは何一つできない。
ぼくだけが置いてかれてるような感覚。

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