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「そんなこと言ってたらいつまでも捨てられないもの」
そう言ってお母さんは写真をゴミ袋の中に置いた。
捨てたのではなく置いたように見えたのが、唯一お母さんを人間だと思える事象だった。
捨てられた写真には僕と、お母さんと、お父さんが居た。
お父さんが死んで10年、写真を捨ててお母さんは
「やっと前に進める」と言った。
やはり人間ではなかったと思った。
お母さんなら、お父さんの写真はずっと飾っておくものではないのか。前に進むためとはいえ、写真を全て捨てるのは冷たすぎやしないかと言いたかった。言わなかった。
ここで何も言わない冷たさはお母さんに似たのだろうか。
これからもお母さんの中にお父さんはいるのだろうか。
そんなことを考えながら僕はテレビをつけた。

8/17/2024, 3:57:13 PM