こし

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2/2/2024, 3:44:45 AM

友達と二人、お店で飲んだ駅までの帰り道。
公園にある桜のつぼみが膨らみ始めて、春の訪れを感じさせる。
楽しくて別れがたくて、もう少し一緒にお喋りしたくて、公園に寄って行こうと誘う。
「えー、寒くない?私は大丈夫だけど。じゃあせっかくだし、ブランコ乗りながらお喋りしよ」
ベンチじゃなくて、ブランコに誘ってくれる。
そんな提案をしてくれるところも楽しくて、私は急いでブランコに座って、さっそく漕ぎ始める。
友達は漕ぐでもなく、なんとなく動かしながらブランコに座っている。
私はそれを見てお喋りの目的を思い出し、慌てて漕ぐのを中止して、ゆっくり同じペースで動かし始めた。

「いいのに、漕いでくれて。でもこっちの方が話しやすいね。
私ね、小さい頃ブランコ苦手だったの。
なんでって、だって怖くない?
いつかぐるんって一周しちゃいそうですごく怖い。」

それはわかる。子どもの頃誰しもが感じる恐怖だと思う。
でも、それ以上にブランコを漕いで感じる風や動きは楽しいものだから、私はブランコが大好きだった。

「そうだよね、それもすごくわかる。
だからブランコはいつも順番待ちだったもん。
でもね、大人になってわかったんだ。
ブランコって何人かで一緒に漕いでても結局は一人の乗り物なんだなって。」

どういうことだろう。
そりゃブランコは一人乗りだ。

「滑り台はみんなで同じ道を一緒に滑って同じ所に着地するし、ジャングルジムもスタートは違っても天辺は同じ。
シーソーは二人で協力するものでしょ?
でも、ブランコはどこまでいっても一人。隣りに乗っててもだんだんペースが違ってくるし、
漕ぐのに夢中になるほど、隣の声は聞こえなくなるし。」

なんとなくわかるような。
でも今こうして2人で漕ぐでもなく動かしながら喋ってるではないか。

「そうだね。でもこれはブランコで遊んでるというより少し面白い椅子扱いじゃない?
まぁ、何が言いたいかと言うと、その一人の乗り物って意識し始めたら、すごくブランコが好きになったの。自分のペースで速さも高さも決められる。力を入れた分だけブランコに伝わる。それって素敵だなって。」

自分の意思が伝わる乗り物と思えばまた違った面白さを感じる。

「だからね、自分の人生自分で舵取りをしたいってこと!」

人生論になった。
あっけにとられた私をよそに友達はすごい勢いで立ち漕ぎを始めて、本当に一周まわっちゃうんじゃないかというところで思い切りジャンプをした。

「こうやって、大きくジャンプもできるしね!」

着地に成功した友達は弾ける笑顔を見せてくる。
なんだかよくわからない感じに友達にペースを持ってかれた気がするが、やっぱりこの子といると楽しい。
笑顔を見たら私も同じように飛んでみたくて、ブランコを漕ぐべく立ち始めた。

1/25/2024, 2:28:36 PM

私は保険の外交員。
皆さまが持っている、生活する上での様々な不安を軽減するために保険を売っています。
そうです。保険というのは人々の安心を目に見える形にしたものなのです。
目に見えてわかるものっていいですよね。
今ではこんな病気やあんな病気、怪我だってありますから。
入院だけではありません。
通院するのにもお金はかかるんですよ。
そして、ご自分のことだけじゃありません。
大事なご家族さまに、もしものことがあるかもしれません。

でも、大丈夫。
入れる保険、たくさんありますからね。
今度あなた様用の保険のおススメを一覧にして持ってきますからね。
安心がお金で買えるなんて、いい世の中になりましたよ。

今日も私は保険を売ります。
誰もが持つ不安を安心に変えるために。
何よりも私自身のノルマを達成しなければいけないというプレッシャーの不安から抜け出して安心するために。

1/23/2024, 7:35:12 AM



推しの熱愛が発覚したし、親友には彼氏ができてあんまり遊んでくれなくなったし、好きな人には他に好きな人がいるらしいし。
もうこの世界で生きていたくない。
今すぐタイムマシーンに乗って、90歳になって死んでしまいたい。

でも待って。今女性の寿命って87歳らしいし、90歳じゃ私まだ元気な可能性あるよね?
じゃあ、95歳ならさすがに大丈夫だと思うからやっぱり95歳にしとこう。

だけど、今から80年後にいくとしてそうなった時今の私はどうなるの。
95歳の横に15歳の私がいるってこと?
それともタイムマシーンに乗ってる途中からだんだん歳とって95歳の状態でそこに移動するってこと?
2人いるのはややこしいから、だんだん歳とる方式を採用しとこ。
これでいつタイムマシーンに乗っても慌てることなく乗りこなせそう。
いつでも来いタイムマシーン!

あれ、あそこにいるの佐藤くんじゃない?
やっぱりカッコいいんだけど。
あー、あの佐藤くんに他に好きな人がいるなんてやっぱり悲しすぎる。

「鈴木さん!偶然だね。今1人?」
え、佐藤くんから話しかけられたんだけど。
ヤバい嬉しすぎる。
「そうだよ、1人。佐藤くんは今からどっか行くの?」
「実は、本当は偶然じゃなくて、鈴木さんに話があって。
好きなんだけど、よかったら付き合ってくれないかな?」
えーー⁉︎ヤバい。本当に?あれ、好きな人って私のことだったの?
これ私も好きだったって伝えた方がいいよね。
「実は、私も佐藤くんのこと好きで。
よろしくお願いします」
「マジで?嬉しすぎる。こちらこそよろしくお願いします。
あ、記念に写真撮ろ?」
あー、嬉しすぎる。スマホケースかわいい。
今度お揃いにしたいなぁ。

いや、私の前髪ぐちゃぐちゃすぎ。
これで告白受けてたなんて嫌だ。
今すぐタイムマシーンに乗って5分前に戻りたい。
そしたら完璧な状態でもう一回告白受けることできるのに‼︎
あ、その場合は5分前の私と今の前髪が直った状態のわたしが入れ替わる方式でお願いします。

1/19/2024, 2:59:22 PM

君が久しぶりに同窓会に顔を出すと聞いた時、僕は心の底から喜んだんだ。
でも、君と僕は仲が良いわけではなかったから、興味がないふりをする必要があった。
「そうなんだ。あいつも来るんだね」
なんて言いながら、他の参加者に対する対応と同じか、少し冷たいくらいの薄い反応をしたんだ。
心の中の興奮が滲み出ないように必死だった。
だって僕はずっと君に会いたくて仕方なかったんだ。

君はいつも気だるげに教室の席に座っていたね。
授業だって聞いているのかいないのか、提出物だって満足にしていなかったと思う。
クラスの中心人物ではなかったし、かと言って遠巻きにされていたわけでもない。
同い年のはずなのに、どこか年齢が上のような雰囲気を纏っていた。
そうかと言えばふざけたりはしゃいだり。
どんな人間も多角的であるけれど、君はその範囲が広く感じられたんだ。
だから、僕は話しかけたくて、君の世界を知りたくて仕方なかった。
けれど、勇気がなくて関係を深めることなく卒業してしまった。

友人からの又聞きで君は海外で夢に向かって挑戦していると知った時は、自分の見る目に感動したんだ。
やっぱり君はひとかどの人物なんだって。
それを教室の中だけで見抜いた僕は洞察力の優れた人間なんだって。
君の頑張りに勝手に便乗しているだけで、恥ずかしいことだけれど。
でも、それを知っていつか君に会えた時は僕も自分の満足する僕になっていたいと思ったんだ。

だから、けっこう努力してきた。
なりたい自分を設定して、そのために行うべきことをコツコツやってきたんだ。
英語も喋れるようになったし、ジムに通って筋肉もつけた。
彼女もできて、関係が続くように話し合いと思いやりを大事にしている。
いわゆる〝大人〟になっていると思う。
君に話しかけてもいいぐらいの人間になったと思う。

君に会いたくて、話したくて目標にしてきたんだ。
友達になりたいなんてたいそれたことは言わない。
あわよくば写真の一枚でも一緒に撮りたいけれど、無理なら全然かまわない。
この気持ちは何だろう。
何度か考えたけれど、わからない。恋慕かと思ったが少し違う。
君が男だってことも関係してるかもしれないけれど、そこはあまり重要じゃない。
彼女に思うような愛しさが全然湧いてこない。
君に対する感情は名前をつけることができない。
憧れ、心酔、尊敬、どれもしっくりこない。
そして名づけることはさほど重要じゃない。
ただ君に会いたい。
きっときっと話しかけてみせるから、その時はどうか僕を見て笑顔を見せてくれないか。

1/18/2024, 2:34:13 PM

この家に越してきて本当によかった。人づてにこの家が取り壊されると聞いた時、思い切って購入に踏み切った自分のことをとても誇らしく思う。
ここにいて、この閉ざされた日記帳を眺めていると、この日記を大事に書いていた少女の頃の思い出が溢れてくる。
兄と弟と比べてお手伝いを言い付けられて嫌だったこと。
教師の言うことに納得がいかず、反発してクラスメートから遠巻きにされたこと。
そして、近所に住む東京から遊びに来ていた可愛い女の子に憧れと妬みをもって遠くから眺めていたこと。
どれもとても色鮮やかだ。

まさにその女の子が遊びに来ていたこの家は
荘厳でモダン。そして、中に入れば意向を凝らした造りになっていて、光をたっぷりと取り入れる窓のお陰で明るく温かな雰囲気が漂っている。
この明るいリビングの肘掛け椅子に座って、日記帳を眺めつつ、お茶を飲むことが1日の中で1番大切な時間だ。
この日記帳はこの家に引っ越す荷物をまとめている時にでてきたものだ。
すっかり忘れていたくせに、存在を認めてしまうと大事なものになるのは面映ゆい。

それにしても、今日こそ日記帳は開くだろうか。
真ん中にぐるりと周った帯を繋ぐように鍵が掛かっている。
鍵はありがたいことに紐でしばってセットになっていたので、この鍵穴に差し込んでまわすだけで、この日記帳は開くのだが。
いかんせん、長い間使っていなかったために、錆び付いてしまいどんなに力を込めても鍵がまわる気配がない。
もう少し若く力がある時に日記帳をひらけばよかったのだが、あいにく今の自分は非力なお婆さんだ。
今日も一応鍵がまわるか挑戦してみるのだがとてもできる気がしない。
早々に諦める。
いつかこの鍵で日記帳が開かれて、中身を読むことはできるだろうか。
少女の頃の自分はどんな秘密や思いをここに綴ったのだろうか。煌めいたものばかりでなく、批判や悪口、面白くないことも書いてあるだろう。
自分にそのような部分があったことは十分理解している。
読みたいような、読みたくないような。
そんな風に曖昧だからこの鍵はひらかず、日記帳は閉ざされたままなのかもしれない。
そして、ひらいてしまったら、夢がひとつ終わってしまうような、そんな気分になってしまいそうな予感もある。

まぁいい。日記帳の鍵に向き合うのは明日に持ち越そう。
今日は眺めるだけでいい。
いつまで続くかわからないこの時間を今は大事にするとしよう。

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