こし

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友達と二人、お店で飲んだ駅までの帰り道。
公園にある桜のつぼみが膨らみ始めて、春の訪れを感じさせる。
楽しくて別れがたくて、もう少し一緒にお喋りしたくて、公園に寄って行こうと誘う。
「えー、寒くない?私は大丈夫だけど。じゃあせっかくだし、ブランコ乗りながらお喋りしよ」
ベンチじゃなくて、ブランコに誘ってくれる。
そんな提案をしてくれるところも楽しくて、私は急いでブランコに座って、さっそく漕ぎ始める。
友達は漕ぐでもなく、なんとなく動かしながらブランコに座っている。
私はそれを見てお喋りの目的を思い出し、慌てて漕ぐのを中止して、ゆっくり同じペースで動かし始めた。

「いいのに、漕いでくれて。でもこっちの方が話しやすいね。
私ね、小さい頃ブランコ苦手だったの。
なんでって、だって怖くない?
いつかぐるんって一周しちゃいそうですごく怖い。」

それはわかる。子どもの頃誰しもが感じる恐怖だと思う。
でも、それ以上にブランコを漕いで感じる風や動きは楽しいものだから、私はブランコが大好きだった。

「そうだよね、それもすごくわかる。
だからブランコはいつも順番待ちだったもん。
でもね、大人になってわかったんだ。
ブランコって何人かで一緒に漕いでても結局は一人の乗り物なんだなって。」

どういうことだろう。
そりゃブランコは一人乗りだ。

「滑り台はみんなで同じ道を一緒に滑って同じ所に着地するし、ジャングルジムもスタートは違っても天辺は同じ。
シーソーは二人で協力するものでしょ?
でも、ブランコはどこまでいっても一人。隣りに乗っててもだんだんペースが違ってくるし、
漕ぐのに夢中になるほど、隣の声は聞こえなくなるし。」

なんとなくわかるような。
でも今こうして2人で漕ぐでもなく動かしながら喋ってるではないか。

「そうだね。でもこれはブランコで遊んでるというより少し面白い椅子扱いじゃない?
まぁ、何が言いたいかと言うと、その一人の乗り物って意識し始めたら、すごくブランコが好きになったの。自分のペースで速さも高さも決められる。力を入れた分だけブランコに伝わる。それって素敵だなって。」

自分の意思が伝わる乗り物と思えばまた違った面白さを感じる。

「だからね、自分の人生自分で舵取りをしたいってこと!」

人生論になった。
あっけにとられた私をよそに友達はすごい勢いで立ち漕ぎを始めて、本当に一周まわっちゃうんじゃないかというところで思い切りジャンプをした。

「こうやって、大きくジャンプもできるしね!」

着地に成功した友達は弾ける笑顔を見せてくる。
なんだかよくわからない感じに友達にペースを持ってかれた気がするが、やっぱりこの子といると楽しい。
笑顔を見たら私も同じように飛んでみたくて、ブランコを漕ぐべく立ち始めた。

2/2/2024, 3:44:45 AM