とあるほんまる

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9/13/2024, 10:31:16 AM

新人に声をかける。
「顕現したばかりの身体では、人の生活とやらにまだ慣れないだろう」
ぼうっと月に近づく金星を見つめる新人君はたった今僕に気がついたというように肩を上げゆっくりと振り向いてまた金星に視線を移した
「まぁ」
とだけ呟いた彼は案外見た目に反して大人しい、ふうっと擽るような風が吹くと邪魔な前髪を耳にかけつつ彼の隣に座る。
「未来、可能性、想い、それと主の心。その他を混ぜて無銘の脇差しに神力を注いだら君ができた。その主の心、とやらが僕は気になるのだけど、なかなか興味深いね」
「お前…なんのつもりだ」
なかなか鋭いのも主譲りなのだろうか、ますます羨ましいなと少し伏せ目がちに思えばもう一度彼が口を開く。
「…オレらは要するにテスターって奴だ、きっと今に5分前の世界は崩壊する」
「哲学には疎いのだけれど」
「もうおせーってことだよ」

もうすぐ夜が開ける。宵の明星は太陽の光に隠れ初め彼の赤眼を照らす。眩しさに彼は目を細めるとそのまま僕に微笑みかける
「邪な気持ちは分かる、主はそういう奴だぜ。5分前の世界が大事なら今の主を俺らで攫っちまうか?明日また新しいテスターが来る」
それは聞いていない、どちらの言葉にも驚いて立ち上がると僕が何か言う前に窘めるよう手を前に出し静止するよう仕草をとった
何かを既に悟った彼の目は戦に出られない体とは思えない焔が宿るよう赤く赤く眩しい
「この本丸に来たからには皆まとめて主もお前も守ってやる、それが主の心だ。任せな」
つい笑ってしまう僕は、無性に嬉しくて新人の彼の頭を両手で撫で回してみる
「大口を叩いて、僕は文系だよ?考えがないわけは無い。でも…面白い子だね」

鶏が鳴いたら主を起こして、歯磨きをさせ朝の支度を終わらせる。後に、すぐ近侍の名を受けその未来を見据えた場所へ赴く、新しいテスターとやらを迎えに。新人君には相棒が必要だ。主を守るために、僕の相棒と同じように、ね
なんてそれは、別の話で。

9/9/2024, 11:18:26 AM

貴方は沢山いるけれど、私の貴方はせかいにひとつだけ。
お馴染みの画面をタッチすると「僕が雅じゃないって?誰が言ったんだい」など不機嫌そうなセリフを放つ。
ひとつ、ぽちりと画面を押せばおかえりなさいとセリフを言うものも。
そうしたら、ただいまと言わざるを得ない。
なんて狡い私の世界に一つだけのあなた達。

ずっとただいまと言わせてね

8/19/2024, 1:58:40 PM

薄紫色に染る空は、もうあと少しで太陽が月とさよならをする時間を告げる。少しの間、数時間のさよなら。
君のしわくちゃになった手を取った。変わらない君の綺麗な肌色は僕よりほんの少し赤みがかっていて、暖かくて好きなんだ。
…ああ、少し、お眠りよ、この顕現を解いたら僕もすぐそちらにお供するから。少しだけのさよならさ

8/17/2024, 1:57:36 PM

読みかけの本を思い出した。
君がオススメしたたぬきやら妖怪が出てくる現代ファンタジーの小説。重なった任務や雑務、更には盆に合わさりぞろぞろとお出まししたお客様ども。
お前と僕たちが同じならば、ものは物らしく人間に使われ愛せよ乙女、小さな幸せよ、僕らに降りかかれと密かに思うのが本能ではないか。
…こいつも、いつかこうしてお盆の時期に大目玉と一緒に僕と戦う日がいつか来てしまうのだろうか、それは、困ったな、君が折ってくれた折り紙の桔梗はそっとまだ、本に挟んだままにしておく。

8/16/2024, 1:47:06 PM

僕が使える主は、正直いって馬鹿だと思う。
食べ方は汚いし所作が先ずなっていない。
シャボン玉だって謝り口の中に含んで飲み込んでしまう始末。
蒼空と同じ色をした髪色は毎朝くしゃくしゃのまま、僕の元に現れて初めて綺麗に整われる。

丁寧に櫛を通しキツく結べば痛いとすぐ言うのだから少しだけ緩めに結んでやる。

まったく仕方の無い主だね。

で、なに?誇らしさだったか、そんなものないよ、付喪神が人間に誇らしさなんて…ねぇ
一振、一振、物にも人にも優しくし、弱いものを助け強き者と肩を並べる。

時に無常な選択肢を目の前に差し出されても、真っ先に己を犠牲にしてしまう。
物に気持ちなんて寄せなくていいのに、
使ってなんぼ、キリキリマイに働いて朽ち果てるまで傍において、人生その最後の一振に僕を選んで、
いつか、ほこりをかぶる。

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