とあるほんまる

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新人に声をかける。
「顕現したばかりの身体では、人の生活とやらにまだ慣れないだろう」
ぼうっと月に近づく金星を見つめる新人君はたった今僕に気がついたというように肩を上げゆっくりと振り向いてまた金星に視線を移した
「まぁ」
とだけ呟いた彼は案外見た目に反して大人しい、ふうっと擽るような風が吹くと邪魔な前髪を耳にかけつつ彼の隣に座る。
「未来、可能性、想い、それと主の心。その他を混ぜて無銘の脇差しに神力を注いだら君ができた。その主の心、とやらが僕は気になるのだけど、なかなか興味深いね」
「お前…なんのつもりだ」
なかなか鋭いのも主譲りなのだろうか、ますます羨ましいなと少し伏せ目がちに思えばもう一度彼が口を開く。
「…オレらは要するにテスターって奴だ、きっと今に5分前の世界は崩壊する」
「哲学には疎いのだけれど」
「もうおせーってことだよ」

もうすぐ夜が開ける。宵の明星は太陽の光に隠れ初め彼の赤眼を照らす。眩しさに彼は目を細めるとそのまま僕に微笑みかける
「邪な気持ちは分かる、主はそういう奴だぜ。5分前の世界が大事なら今の主を俺らで攫っちまうか?明日また新しいテスターが来る」
それは聞いていない、どちらの言葉にも驚いて立ち上がると僕が何か言う前に窘めるよう手を前に出し静止するよう仕草をとった
何かを既に悟った彼の目は戦に出られない体とは思えない焔が宿るよう赤く赤く眩しい
「この本丸に来たからには皆まとめて主もお前も守ってやる、それが主の心だ。任せな」
つい笑ってしまう僕は、無性に嬉しくて新人の彼の頭を両手で撫で回してみる
「大口を叩いて、僕は文系だよ?考えがないわけは無い。でも…面白い子だね」

鶏が鳴いたら主を起こして、歯磨きをさせ朝の支度を終わらせる。後に、すぐ近侍の名を受けその未来を見据えた場所へ赴く、新しいテスターとやらを迎えに。新人君には相棒が必要だ。主を守るために、僕の相棒と同じように、ね
なんてそれは、別の話で。

9/13/2024, 10:31:16 AM