塵も積もれば山となる。
良くも悪くも使われる便利な諺。
愛を信じて結婚したら、愛情のゲージは塵が積もって大幅な目減りをする。
結婚は生活に直結するから、愛だけでは食べていけない。
思ってたんと違う。ってのはお互い様だろう。
惰性で続ける婚姻関係か、独身にかえるか。
お金を信じて結婚したら、結婚相手にお金がなくなったら魅力は地の底に落ちる。
自分と似た人と結婚したら、同族嫌悪の時がくる。
正反対な人と結婚したら、異星人との同居になる。
結局、どんな人と結婚するのが正解?
人それぞれだろうけれど。
極端に、
世界一のお金持と結婚したなら、愛情は無くても尊敬が生まれるだろう。
明日、死んでしまうなら、愛をとるだろう。
したらば、相性というなんとも曖昧な物で測らなければならない。
相性とは?
笑いのツボや、価値観なんて年齢と共に変わる。
相手も自分も変わっていく。
歳をとって、仲良し夫婦に見えても、夫婦の間には数えきれない我慢と擦り合わせがあるはずで、
結局は、
この人がそういうなら仕方ない。
その程度の、許容。
この人のためならちょっと我慢してやってもいいか。
って程度の、見栄。
多分、他所様からみたら『つまらないこと』の積み重ねで夫婦って作られていく。
でも、この『つまらないこと』の積み重ねができないと、夫婦としての縁すらなくなる。
しかも厄介な事に、結婚して色んな嫌な思いをして、自分で選択していかなければならないからこそ、結婚とはやってみなきゃわからないギャンブル。
自分にとって、つまらない事でも相手にとっては重要だったり。逆もまた然り。
『つまらないこと』を拾い集めてお互いに納得して夫婦でいられる。
だから、離婚理由は、不一致の一言で片付いちゃう。
つまらないことでも、真摯に向き合ってくれる相手を選ぶのは、宝くじ当てるより難しいかも。
3番目の子が生まれてからすぐに単身赴任になった夫から
「そろそろ仕事復帰して欲しい」
と、言われた。
子供三人もいれば、そりゃ火の車。
物価高騰も輪をかけて家計を圧迫。
仕事を始めたら、子供達が目が覚めるまでにやる事は、
1洗濯
2お弁当
3着替えand化粧
子供達が起きたら
1朝ご飯
2歯磨きand着替え
3荷物確認、お見送り
仕事が終わったら、
1お迎え
2買い物
3夕飯
4お風呂
5寝かしつけ
私が寝る前までにする事は
1洗濯物の片付けand洗濯2回目
2お風呂掃除
3プリント類の整理
4掃除機はいつする?毎日砂が…
箇条書きにすると大した事ないけど『名もなき家事』と呼ばれる物の厄介さよ。
お稽古の送り迎えは誰がする…?
懇談、参観、PTAは…?
ゴミ出し、窓拭き、トイレ掃除なんかも。
共働きでやってる家庭もある。
実家に頼る家庭もある。
実家は頼れずワンオペ。単身赴任の夫の口癖は
「俺の分の家事しなくていいから楽じゃん」
「なんでそんなにお金かかるの?俺なんて、、、」
いや、夫は成長期じゃないから毎年服買わなくていいよね。靴や下着もパジャマも全部だよ?
成長期じゃないから無限に食べたりしないよね。
歯医者や床屋もタダじゃない。
私達がそっちに行こうか?と言っても、仕事がらアチコチ不定期で移動する仕事の夫は子供のためにと来なくていいと言う。
むしろ、子育てしてないんだから、稼ぐぐらいしてほしいと思ってはならんのか。
ピコンとなったスマホを見ると
『仕事始めても、俺の目覚ましのモーニングコールは忘れないでね。チュ』と。
キモい。
仕事するくらいなら、離婚がチラつくわ。
診察待ちのベンチには、おくるみでぐるぐる巻きにされた赤ちゃんを抱っこしたお母さんが、我が子の寝顔を愛おしそうに見つめている。
私は赤ちゃんを起こさないように、しっかり気をつけて、少しも振動を起こすまいとそっと隣に座る。
順番に座らなければならないから仕方ない。
ほんの少しギジリとなった古いベンチが憎らしい。
しかし、お母さんは笑顔で私の方を向いて、
「大丈夫ですよ。昼間はよく眠るんです。夜に寝てくれればいいのに」
と、言いながら、また愛おしそうに我が子に目をやる。
「そうですか。よかったです。可愛いお子さんですね」
と、何も返事しないのも変かもしれないと、顔の見えない赤ちゃんを褒めておく。
するとお母さんは嬉しそうに、
「えぇ、眠っている時が一番可愛いなんて言ったら贅沢ですよね。でも、こうも夜泣きが続くと寝不足で…」
と、子供のいない私にはわからない育児の悩みを話されて、何と答えるのが正解かわからなくて、頭の中がパニックになる。どうしよう。どうしよう。
さっき来たばかりの私。このお母さんが先なんだけど、呼ばれる気配はない。何か言わなきゃと思って
「大変なんですね。」と声にだす。
お母さんは嫌な顔一つしないで笑顔。
よかった。間違った事言ってない。とホッとしたのに、お母さんは会話を続けたいようだ。
「産むまでこんなに大変だとは思わなかったわー。主人もあてにならないし、実家には頼れないしでへとへとよ。」
こういう時は、『あぁ』『いいですね』『うん』『えぇ』『おぉ!』の中から適切なのを選ぶ。
『あぁそうですね』だと冷たく感じるかもしれない。
『えぇそうですね』だと知ったかぶりみたい。
悩んだあげく
「はぁ」
と、どちらとも言えない曖昧な返事をしたが、お母さんは気にする素振りもなく、
「今日だって、診察なのに、パパは、病院に来てもくれないの。ひどいでしょ?」
そう言われても…何と返事しよう。どうしよう。と悩んでる間にお母さんの方が先に答えがでたようで、
「仕事だから、仕方ないのはわかるのよ?でも、パパとしての自覚が足りないんじゃないかって思うの。」
もう、返事なんかいらないのかもしれない。
とにかく、うんうんと、首を赤ベコのように振る。
「私が専業主婦になっちゃったし、家族の為に働いてくれてるって思って我慢してるけれど、それでも、ねぇ?」
…?ねぇ?って事は返事待ちな感じ?どうしたらいい?
そうですね?かな?旦那さんもお辛いんでは?かな?
家族と仕事の両立なんてした事ないからわからない。
どうしよう。どうしよう。私の不甲斐なさを見抜いたようにお母さんは
「あなたお子さんいらっしゃらない?」
と、聞いてくる。即答できる質問でよかった。
「はい。居ません。」
すると、途端に私に興味を失ってくれたようで、
「そう…」と言って、また我が子を愛おしそうに見つめ始めた。
良かったような、なんかお尻がもぞもぞとする居心地の悪さの中、診察の時間をじっと待つ。
隣に座るお母さんが、我が子の頬を撫でたりお尻や背中を摩っているのを横目に見る。
幸せだわって声が聞こえてきそう。
ふと、お母さんが診察に呼ばれて行った。
赤ちゃんだけを連れて。
手荷物を置いて行ってしまったようだ。
どうしよう。すぐ前にいるから教えてあげようか。
それとも、赤ちゃんを抱いているからわざと置いて行ったのかもしれない。
受付の人にだけでも伝えた方がいいだろうか。
そうしよう。
私が少し腰を上げると、ベンチはまたミシリと音をたてた。
その音で、あのお母さんがふわりと振り返る。
そして、「あぁ、やだわ。また荷物置いてっちゃったわ。駄目なママですねー」と赤ちゃんに話しかけながらこちらに来る。何かおかしい。
おかしな理由がわかるとギョッとした。
声も出なかった。
お母さんは、荷物を取ると何事もなかったように、
「ごめんなさいね。」と、私に声をかけ、
「さぁ、行きましょうね」と、赤ちゃん人形に声をかける。
しばらくして私も、診察室に呼ばれた。
彼女とはまた違う病気ではあるけれど、心の病を治すために、この病院にいる。
私の病室に戻る。
さっきの診察で退院も近いと聞いて、嬉しいやら不安やら。
あのお母さんが、病院から出られる日がくるのだろうか?ここにいた方が幸せなのかわからない。
私は、私は?
この病室からでて、どこに行くのか?どうやって暮らすのか。もう忘れてしまった。
私の世界はこの病院の中。
私の自由は、病室の中。
どうやっても、何をしても生きるしかない病室でしか生きられないのに。
「わからない事も多々あるかもしれませんが、よろしくお願いします。」
と、引っ越し蕎麦をアパートの人に配った春。
都会にはこんな風習残ってないけど、お世話になった不動産屋さんがやっといた方がいいですよって言うんだからやっただけ。
この地で仕事があるわけない。
農業、林業、JAか、公務員くらい?しか仕事の募集はないだろう。
このアパートだって、大家さんが騙されたんじゃない?
って疑っちゃうくらい、空き部屋ばかり。まだ新しいのに。
私がここに引っ越した理由は、ちゃんとある。
仕事は辞めた。
親兄弟との連絡は取れないようにした。
住民票のブロックがいつまで効くかわからないから、なるだけ早くしないと。
引っ越しの際に、持っていたものはほとんど処分した。
そうとは思われないように白物家電と、段ボールは二箱。貴重品?と日用品。夏の服は処分した。
前に住んでいた人が付けたまんまのカーテンもあるし、エアコンもある。ベッドやソファ、机すらない私の部屋。
春先に引っ越したから、コートが布団代わり。
なんとミニマリスト。
そんなつもりはなかったけれど、結果そうなった。
テレビはもちろんない。
スマホで知りたい事はわかるから不便もない。
それより、コンビニと言えないような商店が一つあるだけで、チェーン店の様な気楽に買って食べる物がないのが困る。
キッチン雑貨も処分しちゃったばかりで、買うのは嫌。デリバリーなんてない田舎だし。
インスタントを宅配して貰うのが精一杯。
もう、毎日が明日こそはと思う。
私は理想郷としてここを選んだ。
素晴らしい景色と、ココだと感じたフィーリング。
いつの間にか梅雨明けしたらしいのに、いつ降るかわからない雨。
小雨でも嫌だ。
雲一つない晴天の日でないと嫌なんだ。
しかも、それは11:00ごろの日が登りきってない時間に。
だから、毎朝、日の上る前に窓を開けて空を見る。
天気予報なんて当てにできない。
少しでも雲があると、やる気無くす。
昼前には晴天か入道雲。
午後は、通雨、スコール、豪雨。
このパターンが多いと気がついた。
今日も、夕焼けが、綺麗。
明日も晴れるはず。
晴れて欲しい。
明日もいつもの通り、早起きして空を見る。
明日、もし晴れたら
あの綺麗な山を登る。
私が山って言ってるだけ。の小高い丘。
山の向こうは海。
凄く綺麗な断崖がある。
そこの先端に立つと、海に自分の影が映る。
私は、そこからジャンプして、空を飛ぶ鳥みたいな影を作る。
足に付けたダンベルでスッカリと海の底まで飛ぶんだ。
海の底に着いたら、自分がたてた波や泡を見る。そしたら、海の底から太陽が見えるかもしれない。
最後は一番綺麗な景色をみたいんだ。
母子家庭の子沢山。
長男な俺。
これだけで、だから1人でいたいと思う理由は十分だと思う。
兄弟の父親が何人も違う。
母親は、水商売以外働いた事がない。
これで、役満じゃないかと思う。
じっと耐え、長い事待った実家からオサラバ!
俺はやった!やり遂げた!
公立の高校の学費を自分で稼ぎながら卒業し、晴れて住み込みではあるが、家を出られた。
自動車の組み立て工場で働きながら金を貯める。
治安は良くないけれど、バイト代を母親や兄弟に盗まれなれてる俺は被害にあった事はない。
しかし、応募されてた条件とは随分違う気がする。
なんやかんやで金を払わなければならない。
田舎で金を使う店もないのに、貯まらない金。
二十歳になった。
ここにいても金にはならないと、一念発起して、ホストを目指す。
酒飲んで金もらう。くらいの知識しかなかったけれど、
遅刻しない。健康。って程度で採用された。
顔は母親に似てると思う女顔。父親の顔しらんからわからんけど。
で、ホストってのも寮に入るらしい。
しかもタコ部屋。
こりゃ勘弁。
早く金もらって、念願の一人暮らし!
ホストのイロハを叩き込まれた。
掃除や身なり。
何万円もするTシャツの存在を初めて知った。
アホじゃねーの?って思った。
店で出す酒も、びっくりな値段がある。丸の数数えるのが大変そうだ。
お客さんを姫と呼ぶ。
おばあちゃんでも、なんでも女性は姫らしい。
トンデモな世界だなと思ったが、母親に似たのは顔だけでもなかったようで、なんか指名?俺だけの姫が増えた。
姫が増えたら、金も増えた。
姫が増えたら、連絡したり、会ったりと時間がなくなった。
一年もしないで念願の一人暮らしができるようになった。
セキュリティ万全のマンション。
俺が思い描いてたのと全然違う豪華なマンション。
ブランド物も増えた。
もらったり、買ってもらったり。
携帯もたくさん持たされた。姫に。
姫直通。
姫直通がなったらすぐに折り返す。
寝てたなんて言い訳はできない。
他の姫といる時になっても、仕事の都合上仕方ないと断って折り返す。
そうすると姫は怒る。俺を自分だけのものとしたいらしい。無理だろ。
お客の整理は難しい。
いや、姫の整理。
姫の仕事はさまざまで、昼の仕事、夜の仕事。掛け持ちの仕事。
そんな姫が頑張って稼いだ金を俺に使ってくれてる。
一番儲かるのは店だけど。
今は金がある。自由でもある。
でもなんだか姫のために、店のために。
凄い窮屈な感じがする。
ちょっと休みが欲しくて、普通ならこんな事で休ませて貰えないんだけど、店に頼んで1週間休ませてもらった。
姫直通の電話は店に任せる。
他の姫達も店に任せる。
一台だけ新しいスマホを持って、一人旅。
スマホで写真を撮って店に送る。その写真は姫に送られたりする。
1人でいるようでそうでもない。
電車に乗れば乗客がいる。タクシーに乗れば運転手。
車の免許取っとけばよかったなと思う。
田舎の繁華街で小さなBARに入る。
お客はいないけど、BARの人がいる。
ホテルに泊まる。フロントに人がいる。
ここまで人を気にするようになるのは自分は変な病気なんじゃないかと思う。
田舎ばかりをハシゴして、1週間で店に戻る。
知った顔に安心する自分にびっくり。
姫達の反応はさまざま。
ずっと1人でいたいって思ってた。
1人じゃないイライラの旅だった。
この仕事は長く続けられないとも思う。
次の目標が定まった。
もう、1人でいたくないって思えるパートナーを探す事。