てふてふ蝶々

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7/9/2023, 7:30:32 AM

とっぷりと日は暮れて、幼稚園や小学生くらいの子供だったらそろそろ布団に入って眠りにつく時間。
私は蛍光灯が眩しい塾の窓から自宅のある住宅地を眺める。そろそろ授業が終わりそうだ。
10年ほど前に新興住宅地として作られた住宅が段々畑の様に並ぶ家並み。
私も私の両親とあの家並みの一つに住んでいる。
駅までバスで七停ほど。ちょっと遠い。
だから家から駅を見ると遅い時間になっても煌々と灯りが見える。私のいる塾はその灯の中の一つ。
私の家はきっと灯りはついてない。
塾に通う前は私が留守番していたからついてたと思う。
家に居たから自分家の灯りがついてるところを外から見た事はない。
父も母も忙しい人で家にいる時間はほとんどない。
一人っ子な私はいつも留守番だったから、暇だしやる事ないしでダラダラとスマホ見たりゲームしたりしてた。
口煩く注意されない代わりに、成績は最底辺を這いずっていた。学校ではおバカキャラってほど陽キャにもなれず、今時、ヤンキーなんて見たことないから、そんな仲間もいない感じなんだけど、もうすぐ高校受験って事で塾に通う事になった。
私の成績にも無関心な両親だけど、塾に通いたいと言った時も何もいわず通わせてくれた。
将来の夢なんてないし、勉強は嫌い。
やらなくていいならやりたくないのが本音だけど、中卒で働けって言われても困るから高校行こうかなって思っただけなんだけど、家で勉強した事ないし無理で、塾。
塾に入って良かった事は、夜に1人で家に居なくていいって事。最初はゲームとかYouTubeとか見れないの嫌だなとか思ってたけど、慣れたら別になくてもいいかなって思うようになったし、学校以外の同級生と話するのも面白い。
だから結構、塾にいる時間が好き。
だから、塾が終わって暗い家に帰るバスが嫌い。
明るい所からどんどん暗いところに行く感じが嫌い。
ずっと人がいる明るいところにいたいのに。
もうすぐ授業が終わって、バスに乗る。
そしたら、私は家に着いて、電気をつける。
あの、暗い家並みの灯りの一つになる。
そしたら、誰か私の灯りを見てくれるのかな?

7/7/2023, 10:17:06 PM

親の決めた人と結婚するのが私の役目。
女として産まれたのだから、夫に尽くし、子を産んで…
って育てられた無知だった頃が遠い昔のように感じる。
昭和の時代でも普通に恋愛婚が多かったらしいのに、なーんで親の言う事がフツウのイッパンジョウシキなんて思ってたのか不思議。
若かりし頃、親の決めた相手じゃないと結婚出来ないと、本気で思ってた自分をぶん殴りたい。
結婚するまでの腰掛けでついた受付嬢の仕事。
出会いました。一目惚れです。恋を初めて知りました。
名前も知らない会社の飛び込み営業の人。
貴方が何を話したか覚えていたかったなぁ。
私の頭の中は花が咲き乱れ、小鳥が囀り。
話していた内容を覚えていません。凄く残念。
何を話したかわからないけれども、貴方が私に背を向けて、帰って行く姿はしっかりと覚えております。
しばらくして、結婚相手が決まった私はつつがなく結婚しました。
結婚相手は親の同業他社の一番株だそうでした。
仕事に意欲的で、好青年。
いかにも私の親の好みそうな相手でした。
勤めを果たすべく、私は夫に尽くし子を産むべきでしたが、一度恋を知ってしまった私は結婚相手を受け入れられません。
しかしながら、諸葛、政略結婚。
子が出来るまでは…。と言い訳を作り今も受付に座っています。
若い子がどんどん入社してきて、今の部署は総務となってしまいましたが、貴方が来社するこの時期は、指導と称して受付におります。
貴方のお勤めになる会社と我が社はしっかりと協力関係にあると書類から知りました。
貴方の尽力が、御社を支える一つの要因だと思うと
胸が熱くなります。
一昨年前の貴方は少し肥えて丸くなりましたね。
去年は、髪の色に白が混じっていましたね。
今年はどんな貴方にお会いできますでしょうか。
私も歳をとりました。
イッパンテキにはおばちゃんです。
恋焦がれる気持ちは色褪せないまま、体は生娘のまま。
今年も貴方がいらっしゃると、頭の中は花咲き乱れ、小鳥が囀るのでしょうね。
心より貴方のご来社、お待ちしております。

7/6/2023, 10:58:03 AM

俺の家は貧しくて、食うにも困る暮らしだが、幸せだった。
家は港の横にあるから、海に潜って魚を取れるし、行商の親父の手伝いで遠くまで出稼ぎに行ったら、お代をちょろまかして、ちょっとした小遣いだって作れた。
でもよぉ、俺は戦争には行けねぇんだわ。
まずは長男って事があった。そんでもって、海に入りすぎたのか、鼓膜が破れて無いらしくて耳が悪いらしい。
しかも、目がロンパリだからなかなか赤紙が貰えんで、友達が戦争に行くのを見送ってばかりだった。
近所の者は、俺に石投げたりした。
俺が中等教育終わる間際に戦争が終わった。
卒業したら働くもんだと思ってたら、ある日、家に先生がきた。どうやら俺は成績がいいらしい。どうにか高等学校に行かせてやれないかと、親父に話に来たらしい。
下の妹達を食わせてやらんとならんのに、無理だろうと思ってたんだが、なんやかんやで親父は俺を高等学校に行かせる事にした。
おかげで片道2時間の徒歩での通学が決まった。
俺の町ではまずお目にかからねぇ立派な外套きた同級生やら、入学の祝いと新しいカバンやら靴の者ばかりで驚いた。俺は下駄で2時間歩いて来たんだぞと。
しかしながら、高等学校の新しい同級生はどいつもこいつも人を疑わねぇ心根の綺麗な奴ばかりでな。
聞けば、医者やら議員やら金のある家の子供ばかりだった。
俺は貧乏だが、勉強はできる。
友達に教えてやったりもした。
友達は貧乏な俺を見下しもせず、かわいそうだとも言わなんだ。
しばらくして学生運動が活発になった。
俺たちも徒党をくんで参加した。
ある時、警察に捕まった。
俺は本当は上手いこと逃げたんだが、捕まったやつの家は名家だったから、代わりに俺が拘置所に入ってやった。俺は飯代もかからんし困る事もないからな。
そん時に、学生帽子を潰して被ってた事が気に入らない警官が俺の帽子のツバをチョキンとハサミで切りやがった。
拘置所から出て、また学校に行くと、ツバのない帽子を被る俺を友達が笑って、俺のあだ名は「チョッキン」になった。
俺たちが卒業したら、住む世界の違いからだんだんと疎遠になったが、どいつが言い出したか知らんが毎年同窓会をしようと。
その頃、俺は親父の後は継がんで国鉄に勤めとった。
毎年、どんどん出世していく友達に負けるもんかと一念発起して、国鉄をあっさり辞めて商売を始め、議員を目指した。
俺は金持ちは心根の綺麗なやつばかりだと勘違いしとったんだなぁ。
俺が選挙に出馬表明しに行く朝、俺は商売で騙されとった事を知った。そん時の借金は400万円。
もう、首括って死ぬしかねぇと思った。
でも、嫁も子供もおったから死に損ねる毎日でよ。
そんな時だ、あいつが六畳一間の我が家に来たのは。
あいつはこんな狭くて汚ねぇところに来るような人様じゃなくて、きっちり親の後継いで立派な会社を営んでよ。
俺と小一時間くだらねぇ昔話して帰って行きやがった。
それからあいつが高等学校の同級生に声かけてくれてよ、みんなで400万円もの大金集めてくれて、しっかり言ったんだ。
「借金返してこい。俺らに借金キッチリ返せ。ついでにチョッキンが同窓会の幹事だからな」
って。
それから俺はガムシャラに働いて、商売が上手く回るようになった。借金も返せたし、子供を大学まで行かせてやれた。
その間も毎年一度の同窓会は続いた。
何十年この同窓会を開いただろうか。
同窓会の参加者は少しづつ減ってって、皆が88になる年に、コレで終いにしようと決めた。
後は、みんなあの世で同窓会でいいじゃないか。
みんな精一杯生きたから、話は尽きる事ないだろ?

7/5/2023, 2:20:06 PM

「ママ!カエルがいるよ!カエル!」
「わぁ、本当だー」
「カエルさん、こんばんは!」
「カエルさんもこんばんはって言ってるよ」
「私、こっちに引っ越すまでカエルさんは緑色だって思ってたの。ママも?」
「うーん?違う色のもいるって知ってたけど、見るのは初めてだなぁ」
「そっかー。このカエル可愛くないねー」
「そう…そうかなぁ」
「茶色でデコボコでブサイク!」
「うーん。見る人が見たら可愛いと思うんだよ」
「そうかなぁ?ママが言うならそうなのかも。」
「今日ね、幼稚園にカエルさんがいてね!緑色のコレより可愛い方のやつね!私、びっくりしてギャー!ってさけんじゃったの」
「ママでもいきなりのカエルさんならギャーっていっちゃうかも」
「でしょ?なのに、幼稚園のお友達がさ、これだから東京もんは!ってバカにしてきて頭に来ちゃった」
「まぁ、東京からきたのは本当だしね」
「ママだったら怒らない?」
「うーん?どうかなー。怒ってもねぇ」
「そういうママの煮え切らない態度が良くないのよ!」
「…ちょっと、どこでそんなセリフ覚えたの。」
「私はね!怒ったよ!すっごくすっごく怒ってね、カエルさんの近くにいたカタツムリをその子に投げてやった!」
「へぇ。カタツムリ。」
「そう!カタツムリってバイキンがいっぱいいるから触っちゃだめなのに、手掴みで投げた!」
「そうなの?バイキンいるんだ。知らなかったなぁ。ってダメって言われてた事したらダメじゃん」
「だって、私の事、東京もんって馬鹿にしたんだよ?ママに意地悪言ってるおばあちゃんみたいな顔してたもん」
「おばあちゃん、意地悪かなぁ」
「そーだよ!私達のいた東京とこの田んぼの中じゃ知ってることが違うって知らないのかな!口癖みたいに亀の甲より年の功っていう癖にさー。ママのお仕事の凄さ知らないなんて、おばあちゃんは井の中のカワズね」
「だからいつそんな言葉…っていうか上手いこというじゃない」
「ママのデザインする作品はさ。たくさんの人が見て凄い!って言ってくれるしとっても綺麗なのにね」
「うん。ありがとね。ママもこのお仕事好きよ」
「私もママの作品好きー」
「私も将来はデザイナーになる!」
「そうなの?」
「うん!こっそり原案なんてあるんですよ」
「原案…大人の言葉よく聞いてるのね」
「ママと東京に帰れるなら、こっそり教えてあげてもいいよ!」
「東京に帰りたいの?」
「私はどっちでもいい!でもママと一緒にいる!ママははここより東京にいた頃の方が幸せそうだったよ!」
「ママが東京に帰りたいなら教えてあげる」
「うーん。色々大人にも事情があるのよ」
「ほら!そうやってハッキリしないとこ!だからおばあちゃんに付け込まれるんだ!」 
「確かにねぇ。ハッキリしなくちゃね。」
「そうそう!その勢いよ!ママ、私はこの悔しさを夜空の星で表すの!」
「ほぉ」
「勝手にキラキラしてて、綺麗だろ?って見せつけてる癖に届かないじゃん?」
「そういう見方もあるわね」
「この土地の人から見たら東京もんってそんなかんじなんじゃない?」
「ほぅ」
「だからさ、東京の人が憧れて手が届かない田舎の星空を見せつけてやろうよ!」

7/4/2023, 11:52:24 AM

「とりあえず、座って話そうか」
と、青ざめた顔した夫を食卓テーブルに向かわせる。
今し方閉まったばかりの玄関を見つめる。
私はキッチンへ行き夫の分だけコーヒーをいれる。
コーヒーの香りに気分が悪くなりそう。
夫がこちらを不安そうに見つめているのを背中に感じる。
1人分のコーヒーをテーブルに置いて私も座る。
こちらの様子を伺うような視線で何も言葉を発しない夫に少し苛立つ。
仕方ないからと、私から話を切り出してあげる。
時間ないし。
「で、さっきの女性と不倫してたの?」
「いや、違うんだ!そんなんじゃない!気の緩みというか…そう、酔った勢いっていうか、俺は君だけが好きなんだ!誤解しないで欲しい!」
「いやいや、誤解する前に話聞いておこうってだけよ」
「俺は君だけだ!それだけはわかって欲しい!」
「でも、彼女、妊娠してるって言ってたわよ?」
「俺の子じゃない!」
「でも、エコー写真みせてくれたから妊娠は本当なんじゃない?誰の子かは別としてもさ」
「そうかもしれないけど、俺の子じゃないから!」
「そお?本当に?最近帰りが遅いどころか日が登ってから帰宅してさっと着替えだけして出社も良くあったからさ。疑われても仕方ないと思うんだ」
「違う!本当に!酒の強い上司がいるって言っただろ?」
「私と最後に一緒に夜ご飯食べたのいつだっけ?」
「…」
「してしまった事について、とやかく言うつもりはないのよ。今後どうするか決めましょう?」
「断じて俺は浮気なんてしていない!」
「だから、そうじゃなくて、今後もこうやって彼女に突撃されても迷惑なの」
「…」
「会社に報告する?迷惑してますって」
「いやダメだ!昇給かかってるんだよ。今が踏ん張り時なんだよ!」
「…困ったわね」
「とにかく、会社に連絡だけはしないでくれ!俺が稼がないと君も困るだろ?」
「まぁ、専業主婦になったしね。」
「早く子供産んで貰って賑やかで暖かい家族になりたいんだよ。君はきっといいお母さんになるから、子供と君が金に困らないように飲みたくない酒飲んだりさ…君が妊娠すりゃ上司に断りも入れやすいんだけどなぁ。コレばかりは授かり物だから…」
「…そうねぇ。とりあえず、夜も遅いし今日はもう寝ましょ?私、なんだか体調が優れなくて…」
「…子供…?じゃないよな。最近…その…してないし」
「そうね。違うと思う。季節の変わり目だからかしらね。」
「…そうか…わかった。先にベッド行ってて、風呂入ったら俺もすぐ寝に行くから」
「うん」

ベッドに横たわり、お腹をさする。
最近の私の癖になりつつある。夫は気付きもしないだろけどね。
妊娠がわかると同時に見つかった癌。
「愛妻家だと思ってたのになぁ」
それを伝えてしまったら、子供は諦めて癌治療に専念してほしいって言われたくなくて、産むしかないって時期まで黙っておこうと思ってた。
仕事に励んでくれる夫に心配かけたくもなかった。
「困ったお父さんね。」
産まれてくるのは、この子かあの子か両方か。
神様はどんな顔してみてるかな。

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